ビニールハウスを呑み込んだ鯨の静かな死

やま / 2016年5月22日

640px-Mother_and_baby_sperm_whale白いアスパラガスが美味しい季節がドイツにもやってきました。からっとした青空の下で冷たい白ワインといただくアスパラガスはこの季節の最高のご馳走です。しかし、スーパーの野菜売り場に行くと季節や旬には関係なく、多種多様の野菜が並んでいます。私たちが季節を待てずに買っているイチゴやトマトがあの巨大な鯨を殺していると言われたら、それを信じるでしょうか。

「静かな死」というルポが南ドイツ新聞の週間付録に掲載されました。この週のテーマは「旅の便り」でした。夏は青い海、白い浜辺、そして太陽を求めてヴァカンスを楽しむ人たちで賑わうスペイン、マラガ市近辺の海岸。この浜辺での出来事でした。(一部抜粋)

2012年3月の末、冬の終わりを告げる風が海を荒らす。波は一頭の巨大な動物を陸へ打ち上げた。「まだ若いマッコウクジラのオスでした」と語るのはセビリアにある研究所で働く海洋学者のステファニスさん、40才だ。6才になる娘には、自分はクジラドクターだと仕事を説明しているそうだ。

(歯のある動物では世界最大と言われている)マッコウクジラは、異常に痩せていた。普通マッコウクジラは数週間、餌なしで生き延びることができる。厚い脂肪層により温血動物であるクジラは冷たい海中でも体温を一定に保つことが出来るからだ。しかし海岸に打ち上げられてしまうと、この分厚い脂肪層が反対に死の原因となる。小さいクジラにとって、脂肪層が断熱の役割を果たしてしまい体内はその中で茹ってしまう。大きいものは脂肪層の重さで押し殺される。しかし、このクジラは異常に痩せていて脂肪層がない。死の原因はなんだろう。ステファニスさんが思ったよりも若いクジラで、年齢は10~15歳だった。体長は10mだったが体重は5トン足らずだった。

ちなみにマッコウクジラのオスの標準的な体長は16~18mで体重は50トンと知りました。ルポをここまで読み、「もしかして」と私は思わずにはいられませんでした。しかし、ビニールやプラスチックのゴミは軽いので水上に浮かんでいて、クジラは餌として呑み込まないはずです。なぜならば、マッコウクジラの獲物は中深層に生息する(人間の食用には用いられない)クラゲイカなどです。

クジラの消化器は驚くほどうまく出来ている。マッコウクジラは獲物を丸ごと呑み込む。その量は毎日イカ何百杯に及ぶ。4つの胃が大量の獲物を消化してしまい、後に残るのはイカの骨ぐらいで、これらは直腸に集められて胆汁で溶かされる。この骨の一部が直腸に残り、龍涎香(りゅうぜんこう)と呼ばれる香料が出来る。しかし、いつ、そして、なぜこの骨がマッコウクジラの直腸に残りのか、まだわかっていない。龍涎香は非常に貴重な天然香料だ。

研究生たちが凸凹したマッコウクジラの皮膚を押して切り裂き、少しずつ脂肪層を取り出していった。脂肪層は柔軟性を失っていて硬いゴムのようだった。解剖の様子をカメラに収めながら徐々に腹腔を開いていった。ステファニスさんが一つ目の胃袋を開けたと同時に、はっとした。中から出てきたのはイカではなかった。それはビニール袋だった。そのビニール袋を取り出すと、またビニール袋があった。胃から溢れ出てきたのは黒いビニールシートだった。誰も何も言わなかった。ただ黙ってクジラの胃の中に溜められた物を取り出していった。

ビニール袋が5枚、ガーデニングシートが4枚、プラスチックの水差しが2個、プラスチック製の花瓶の一部が一欠けら、プラスチック製の洗い桶が一つ、ビニールの縄が5本で全部の長さは9m、重さが3.4kg、織布タイプの黒いビニール袋が7枚、3.1mと1.4mのホースが2本、その他プラスチックの欠片が合わせて2.5kg、ペットボトルが1本、プラスチック製の植木鉢が2個、防草シートが26枚で合わせると大きさが約30㎡、重さが8kg、マットレスの一部、アイスクリームの容器が1個。

ステファニスさんは驚きのあまり立ちすくんだ。今、何がこのクジラを殺したのかが分かった。胃が満杯でクジラは餓死したのだ。「クジラはビニールハウスをそのまま胃の中に溜めていたと言えます。全てを胃壁からかきだすことは出来ませんでした」と言いながら、コンピューターに向かい、アルメリア地方の衛星写真を見せた。延々と広がるビニールハウスの海だ。ヨーロッパ中の野菜や果物がここで栽培されている。この巨大なマッコウクジラを殺したのは、ビニールハウス栽培で出た何でもないゴミだったことが、今回証明された。人間が陸上で使ったプラスチックが海に大量に残っている。

 

プラスチック・プラネットの浜辺:
祖父が孫を連れてピクニックをしている。鯨の形をした大きな物がいくつも浮いている。
孫「おじいちゃん、あれ見て!」
祖父「あれはね、このトマトの育ったお家や、坊やのおもちゃ、浮き袋、ビーチボールが海に流れて、食いしん坊の鯨さんが食べちゃったもの。それを、おじさんたちがお腹の中から取り出して、リサイクルして作ったのがあのクジラさ。可愛いね」

関連記事
Der leise Tod, Roland Schulz
http://sz-magazin.sueddeutsche.de/texte/anzeigen/44423/Der-leise-Tod
ビニールハウスの海、http://midori1kwh.de/2014/06/15/5609

写真参照
Gabriel Barathieu, https://www.flickr.com/search/?text=Gabriel%20Barathieu

Comments are closed.