天国の広告 — 苦心するドイツ大使館

ツェルディック 野尻紘子 / 2015年12月27日

まるで天国の広告のような文章がソーシャルメディアで広まり、効果を上げていた。それはアフガニスタンやシリアで、ドイツがまるで夢の国であるかように描写され、それを真に受け、高いお金を密航斡旋業者に支払ってでもドイツに向かう若い青年らが後を絶たなかったことだ。各国在のドイツ大使館は、誤解の訂正と正しい情報の提供に苦心している。ベルリンの日刊紙「ターゲスシュピーゲル」が報道している。

ドイツ連邦内務省の発表によると、ドイツで今年難民として登録された人たちは11月末までに96万5000人に達し、難民の数が年末までに100万人になることが確定的になった。こんなにも大勢の人たちがドイツを目指した背景には、ソーシャルメディアを通して間違ったニュースが広まっていたこともあるようだ。

例えばアフガニにスタンではこの夏 、「ドイツは今年80万人のアフガニスタン人を受け入れる」、「アフガニスタン人は、ドイツに着くとすぐドイツのパスポートがもらえる」、「ちょっとしたお小遣いももらえるし、すぐに職場、住居も与えられる」などという間違ったニュースがフェースブックやツイッターで広まっていたという。そこでドイツ外務省は、8月末以来、 難民が最も多くドイツにやって来る国のドイツ大使館を通して、啓蒙運動を始めた。それ以来、各地のドイツ大使館職員が、その国の住民が最も多く利用するメディアに目を通すようにもしているという。シリア人はよくフェースブックを利用する。アラビア諸国ではラジオ、アフガニスタンではテレビの利用者が多いという。

例えば9月にはレバノンで、難民を乗せて転覆しかけている古びた船の写真と一緒に、「ドイツ船が難民を迎えに来る」という文章がソーシャルメディアで流れ、数百人の難民がドイツ大使館の周りに集まった。そこで大使館の職員はメガフォンで「そのニュースは誤報です」と彼らに伝えなければならなかったという。

ドイツ国内向けのニュースが、ドイツ人が考えている以上に迅速にグーグル翻訳などでアラビア語に訳されたりして国外に伝わるケースも多いという。ただし元のニュースが正しく訳されていなかったり、関連から切り離されて一部のみが伝わったりする場合は少なくないという。そこから誤解が生じる。

カブールでは、ドイツ大使館とドイツとアフガニスタンの広告代理店が共同でポースターを制作し、出国希望者の多く集まるカブールやヘラート、マザ・イ・シャリフなどの都市のパスポート発行当局の近くに掲げた。ポースターには「アフガニスタンを去りたいのですか?よく考えましたか?」と書かれており、「ドイツに関する噂」へのリンクが示されている。リンクをクリックすると「全てのアフガニスタン人がドイツのパスポートを取得するというのは本当ですか?」などという質問の答えが書かれている。「脅す気持ちはありませんが、彼らが十分に情報を集め、もう一度考えることを望んでいます」とアフガニスタン駐在ドイツ大使のマークス・ポッツエル氏。

各国在の大使館が、地元の協力者と一緒に地域のメディアやフェースブック、ツイッターなどに正しいニュースを伝えるようになってから、大きな間違ったニュースがあっという間に広まることは減ってきたという。間違った希望を持ってドイツにやって来て、落胆した人たちのニュースも、少しずつフェースブックやツイッターで広まりつつあるという。

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