日本の「結」を思わせるウイーンに建った共同集団住宅

やま / 2015年10月11日

wohnprojekt wien快適な暮らしを送りながら、なおかつCO2の負荷を減らすことはできないものかと、ハインツ・フェルドマンさんは2009年の夏、友達2人と話し合いました。55人が協同でそのビジョンを実行に移し、2013年、39世帯が住める共同住宅が完成しました。オーストリアの首都ウィーンに建てられた8階建ての住宅プロジェクト・ウィーンを、将来を示す好例として、今年の秋、ある建築雑誌が取り上げました。

「無限ではない資源を分け合い、共同で使用する」というビジョンを持つグループとディベロッパーが集合共同住宅を建てた。ここには39世帯の住居だけではなく、多数の共同の間がある。多目的ホール、共同炊事場兼食堂、子供のための遊戯室、作業室などだ。屋上にはサウナ、図書室、3戸のゲスト・アパートメントのほか、2ヵ所にルーフガーデンが設けられている。共同の間の維持と手入れはそれぞれのグループに分かれた住民たちが担当している。住民1人当たり毎月11時間、共同活動を実施している。1階に設けられたカフェと設計事務所が町の人たちと住民の出会いの間となっている。建物はコンパクトな形だが、大胆な切り込みが入り、そのおかげで、床面積36~137㎡の住居の大半は他方面に窓があり、明るい。バルコニーの位置や広さ及び住居の間取りも多種多様だ。広い(幅2.5m、長さ25m)階段室は北東と南西に大きな窓があり、ぬくもりを感じる。ここは単に出入り口エリアだけではなく、隣近所の出会いの間となっている。

6782494281_49fd14448a_oエコロジカル・フットプリント

住宅プロジェクト・ウィーンの生みの親であるハインツ・フェルドマンさんはグローバリゼーションやグローバル資本主義に反対するNGO、アタック(attac)のアクティビストです。

「エコロジカルな生活を送りたいからとはいえ、みんなが自然を求めて村に移り、一戸建て住宅に暮らすとなれば、土地がいくらあっても足りなくなるでしょう。もっとスマートな手段はないかと考えたのです。土地が限られていて、人口が密集している都市で、共同で集団住宅に住むということは、限られた資源を分け合い、エコロジカル・フットプリントを減らすことに繋がります」と彼はインタビューに答えていました。

「1人では屋根はかつげない」というアフリカのことわざがあります。日本には200人~300人が総出で1棟の屋根の葺き替えを「結い返す」村があります。資金の面から見ても、建設知識の面から見ても個人で集合住宅を建てる力は到底ありません。そこで、フェルドマンさんは友達とメールでやり取りをしながら簡単にアイデアをまとめ、興味や関心のある人が参加できるミーティングを催すことにしました。1ヶ月に一度、大勢の参加者が集まり、共同集合住宅について意見を交換しました。プロジェクトの目的については理想が一致したのですが、立地条件についてははっきりと意見が分かれました。第1グループは、地下鉄など交通の便が良い町の中心地を、第2グループは緑の多い郊外を選らび、それぞれ分かれて実現化することにしました。結局、第2グループは後に解散したそうです。

丁度その当時、ウィーン市は北駅付近の都市開発のため、ディベロッパー及び建築家を公募しており、フェルドマンさんたちの共同集合住宅のアイデアは社会的な持続可能性があるという理由で敷地を得ることができました。

この集合住宅の施主は住宅団体です。普通の分譲住宅と違うのは、個人が一戸の住居や建物全体を売ることができないことです。「住宅の投棄売買を防ぐことは、市民が住み慣れた地域に住みとどまれる社会環境を守ることになります。1970~1980年代に市民が共同で分譲住宅を建てた例はいくつかあります。同じ年代の住民がプロジェクトを実施して、ほぼ同じ時期に数々の住居が一度に売買され、新しい入居者が入りました。新築当時、住民たちの間で大切だった『結』が失われていきました」とフェルドマンさんは説明しました。

「初めからはっきりしていたことは、共同で資金を集めるだけではなく、一人一人がプロジェクトのために時間を割くことです。ちなみにマイホームを建てる場合、施主としてプランニングに相当な時間を費やすものです。もちろん、仕事で忙しい人もいるので、一概には言えないのですが、一人当たり毎月平均11時間を団体のために提供すことに決めました。記録によると発想が生まれた日から入居日までに、私たち住民が提供した時間は合計2万4000時間に上りました。この半分はいわゆる“ハード・ウェア”に、建物のプランニング、金融そして法律的分野、後の半分は“ソフト・ウェア”に費やされました。この“ソフト・ウェア”は社会的な構成に重要で、例えば共同生活、共同精神、あるいは新入居者の受け入れなどについての意見交換です。私たちのプロジェクトが成功したのは、この“ソフト・ウェア”があったからだと思います」とフェルドマンさんは団体の構成の説明を続けました。

この団体では、住民誰もが全ての決定に立ち合うのではなく、8つの作業グループが担当する問題点を解決して、理事会に持って行く構成になっています。住民が選べる作業グループは:持続可能性研究会、共同精神研究会、共同空間研究会、建物・デザイン研究会、共同生活研究会、広報活動研究会、金融・法律研究会、企画運営研究会。役所が管理する官僚制ではなく、社会共同集団が管理する制度で、ソシオクラシーと呼ばれています。

例えば設計者は持続可能性研究会との相談の上、地下駐車場を断念し、住民はカー・シェアリングを利用することに決めました。普通住宅を建てる場合、敷地内に決められた数の駐車場を設けないと、建設許可が下りません。この規模の建物の場合、必要な駐車場の数は32台です。この集合住宅では、共同に使う空間が700㎡もあり、共同宿舎として申請したので、駐車場が無用になりました。32台分の駐車場の建設コストは約50万ユーロ(約6700万円)で、これを多目的ホールの建設にまわすことができたそうです。

記事の最後に数人の住民たちの感想がありました。(一部抜粋)

以前8年間、隣近所の付き合いのない集合住宅に住んでいた。特に、このプロジェクトで気に入ったのは、住民の年齢層が偏っていないことだ。広々とした階段室にある、吹抜を通して、上や下の階の住民とも気軽に雑談ができる。退職したら、有意義な仕事が団体内で出来ることを楽しみにしている。S・R

今回、共同住宅に対しての期待が、はるかに上回った。玄関のドアを開ければ誰かに必ず会う。何かを借りたいとか、子守りを頼まれたり、いっしょにウォーキングに出ないかとか…。ドアを閉めればプライベートが重視される。共同に使える空間は自分のものではないが、それでも使用者は自分のもののように自由に使える。助かったことは、物が増えないことだ。読み終わった本は図書室に提供できるし、毎回新しい本を買わなくても図書室で読める。共同で車を使うシステムを作ったので、今は自家用車も持っていない。共同洗濯場があるので洗濯機は住居には置いていない。C・A-F

umzug

屋根はみんなで担ぐべき

2歳の息子を持つ母子家庭の若いRさんは定期的に図書室を仕事場として利用しているそうです。昼食は息子といっしょに、いつも一階の食堂へ食べに行きます。料理しているのも、ここの住民たちです。料理に使う野菜は共同倉庫から。クラ・キャロットという名前の住民グループが、近辺の有機農家から定期的に野菜を大量に仕入れます。地下にある野菜専用の広い倉庫の設置も住宅団体の希望だったそうです。

現在、ここに住む団体のメンバーは大人がおよそ60人、子どもがおよそ20人だそうです。彼らは快適な暮らしを送るために、それぞれ役割を見つけることができたようです。

関連リンク
住宅プロジェクト・ウィーン、http://www.wohnprojekt-wien.at/
設計事務所、http://www.einszueins.at/project/wohnprojekt-wien/

写真参照
エコロジカル・フットプリント、https://www.flickr.com/photos/ielesvinyes/
ギニアの引越し風景、Dr. Pales, collection musee de l’homme, Architekture Without Architects, by Bernard Rudofsky

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