エルマウ城でのG7サミット、ドイツメディアはどう伝えたか

永井 潤子 / 2015年6月21日

6月7日と8日、ドイツ南部・バイエルン州のエルマウ城で開かれた先進主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、地球温暖化対策の新たな長期目標を盛り込んだ首脳宣言を採択し、西側先進7カ国が地球温暖化防止に取り組む強い決意を表明した。当初今回のG7サミットの成果に期待せず、3億6000万ユーロ(約500億円)の高い費用をかけてこうした首脳会議を開くことに批判的だったドイツのメディアも、この結果については好意的に評価した。特に工業化が始まった時に比べ気温上昇を2度以内に抑えるために思い切った対策の必要性が強調され、今世紀中に世界経済が「脱炭素化」を目指すことが最終コミュニュケに盛り込まれたことを、センセーショナルな成果と受け取る向きもある。

今回の首脳宣言には、気候温暖化防止策について2つの重要な点が明記されている。一つは地球の温暖化を防ぐために、温室効果ガス排出量の大幅削減が緊急に必要である点が強調され、2050年までに世界全体で温室効果ガスの排出量を2010年比で40〜70%の幅の「上方」に減らす目標を支持することなどがうたわれている。もう一つは、今世紀中に世界経済全体の「脱炭素化」を実現するという目標を、G7サミットの参加国首脳は支持すると明記された点である。「脱炭素化」とは、石炭や石油、天然ガスなど化石燃料の使用をやめるという意味である。もともと今回のサミット最大の課題の一つは、温室効果ガスを排出し続けて経済的に発展し、豊かな社会を築いた先進7カ国自身が、どこまで厳しい目標を掲げることができるかだった。その点で厳しい温暖化対策で一致すると同時に、温暖化に責任のある先進国として途上国の温暖化対策への支援を強化すること、「2020年から年間1000億ドル」という資金援助の目標が再確認され、アフリカなど発展途上国での再生可能エネルギーへの支援などがうたわれている。

オスナブリュックで発行されている新聞「ノイエ・オスナブリュッカー・ツァイトゥング」は今回のエルマウ・サミットについて次のように書いている。

G7サミットの参加国の首脳たちは、予想外にも地球温暖化ガスの長期的削減目標で合意することができた。それが宣言に明記されたことは喜ばしいことである。今回のG7サミットは期待された以上の成果を上げた。

ハノーバーで発行されている「ノイエ・プレッセ」の論調は次のようなものだ。

最終宣言にはグリーンピースのメンバーも歓声を上げた。G7サミットの参加国の首脳たちが環境保護組織から公式に賞賛されることは珍しい。その意味で今回はサミットの歴史に残る首脳会議となったと言える。アンゲラ・メルケルはまたしても「気候変動宰相」としての面目を発揮した。

「石炭、石油、ガスとの別れ」という見出しで大きく伝えているのは、ミュンヘンで発行されている全国新聞「南ドイツ新聞」だ。「今回のG7サミットは新しい時代の到来を宣言した。先進7カ国の首脳が次の世紀の地球温暖化をストップさせるため、エネルギー問題での過激な変革を約束したのだ」というリードもついている。

先進工業7カ国のグループは化石燃料の時代に終止符を打つことを願い、エネルギー供給の抜本的変革を今回初めて要求した。今世紀中の「脱炭素化」の実現もその一つである。これは有害な気候変動ガスを発生する石炭、石油、天然ガスの利用を断念することを意味する。メルケル首相は「年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で気候条約を締結させるためには、すべての国が環境に優しい道を歩むようにしなければならない。我々はこの気候条約の主要点は拘束力のあるものにしなければならないという点で明確に一致した」とサミット閉会後に述べた。日本とカナダは拘束力のある文言にすることに強く反対したが、アメリカのオバマ大統領の態度が合意実現に決定的な役割を果たしたと伝えられる。メルケル首相も「最終宣言の文言はハードな交渉の結果である」ことを認めている。最終宣言に気候温暖化防止に関する厳しい表現を盛り込むよう要求したのは、ドイツとフランス両国で、年末のパリのCOP21の主催者であるフランスのオランド大統領はメルケル首相とともに明確な路線での合意に尽力したと伝えられる。

ベルリンで発行されている日刊新聞「ベルリーナー・ツァイトゥング」は「G7: 石炭なしの世界は可能」という見出しの記事を掲載した。

G7は地球温暖化防止を特に自分たちの義務と考え、この分野で世界の先駆者としての役割を果たそうとしている。しかし、エルマウでの気候変動問題での討議では特に激しい議論があったと伝えられる。なかでも議論の進展にブレーキをかけたのは、日本の安倍晋三首相だった。日本は世界最大の石炭消費国であるうえに、工業国として従来のエネルギー分野の技術に固執している。最終宣言でエネルギー分野という言葉がはっきり使われているのは、電力だけではなく、交通や暖房などの熱エネルギー問題を含めたすべてのエネルギー分野での気候温暖化ガスの削減という意味である。グリーンピースのエネルギー専門家、トビアス・ミュンヒマイヤー氏は「メルケル首相は義務を伴う最終文書を持ってベルリンに戻ってくる。このG7の後メルケル首相は、最も古い、たくさんの有害ガスを排出する褐炭火力発電所に課税するべきだというガブリエル経済・エネルギー相の提案をもはや避けて通ることはできない」と語った。

「ベルリーナー・ツァイトゥング」はまた、その解説欄で「最近のメルケル首相はコール元首相の末期のように世界的な政治家としての役割により関心を持つようになっているようだが、ドイツ国内の気候変動対策をないがしろにすることは許されない」と警告している。

一方、「気候温暖化防止に関する約束は、ドラマチックな結果をもたらす」という見出しで論評しているのは、フランクフルトで発行されている全国新聞「フランクフルター・アルゲマイネ」だ。

「気候変動宰相」メルケルは粘り強かった。今回のG7サミットで先進主要国は将来石炭や石油、天然ガスなどから完全に撤退することを宣言した。「脱炭素化」が明記されたことは強力なシグナルであるが、その結果、多くの国々、多くの関係者に骨の髄まで響く大きな影響をもたらすことになるだろう。「脱炭素化」が実現されると、石油産出国、天然ガス産出国、あるいは石炭産業や石油会社は大きな影響を被るため、激しい抵抗が予想される。首脳宣言では、貧しいアフリカ諸国などへの新たな支援措置などもうたわれており、こうした先進工業諸国の強いサインは、先進国に追いつきつつある中進国や発展途上国に強い印象を与えるだろう。G7のメッセージは、年末にパリで開かれるCOP21を絶対成功させたいというメッセージである。メルケル首相はエルマウ城でのサミットで長期的な目標でも粘り強さと行動力を発揮することができることを証明した。メルケル首相の成功を助けたのは、フランスのオランド大統領とアメリカのオバマ大統領だった。前者は原発政策をとり、後者はシェールガスの採掘に力を入れているが、長期的目標ではメルケル首相の意向を支持した。

「脱炭素化」という言葉を明記することに対しては日本やカナダが抵抗したが、「メルケル首相は主催国の首相として、先進国が強いサインを発しなければ年末のCOP21が失敗するとして、これらの国々に同意するよう求めた」と伝えるメディアもあった。また、12月のCOP21の主催者であるフランスのオランド大統領が安倍首相に対し、G7参加国のなかで唯一日本がこのパリ会議での政府提案をまだ提出していないことを指摘したという報道もあった。

G7サミットが開かれた地元では、バイエルン州の警察がこれまで最大の警備体制をしき、そのための費用も膨大なものになったが、G7反対の抗議行動も心配されたほど過激なものではなく、無事に終わったことにホッとした表情を見せる関係者の言葉を地元のメディは伝えていた。また、同州のウルムで発行されている新聞「ジュートヴェスト・プレッセ」のように、依然としてサミットの「費用対効果」を問題にする新聞もあった。

地元の新聞記事で特に気になったのはミュンヘンで発行されている新聞 tzとメルキュール・オンライン版の「エルマウ城ではなくミュンヘンのホテルに泊まることを望んだ日本の首相」という見出しの記事だった。

外交官と警備当局のいらだち: エルマウ城でのG7参加者のうち、どちらかというと扱いやすいと思われていた一人のゲストのために関係者は特別の努力を強いられた。警備関係者によると、最初に到着した日本の安倍晋三首相は、週末の計画を何回か変更したという。まず、土曜日の午後到着予定だったのが、夕方の到着に変わり、最初エルマウ城ではなく、ミュンヘンの豪華ホテルに泊まることを希望した。また、安倍首相は日曜日の午後、首脳会談の合間にミュンヘンの別のホテルで記者会見を行うことを望んだ。エルマウ城での首脳会談のスケジュールがびっしり詰まっているサミットのオーガナイザーたちは、こうした要望に答えることはほとんどできない状況に置かれていた。また、首脳が滞在するところはどこでも、事前に警察犬を使って爆弾が仕掛けられていないかチェックしなければならない警察の手にも余るものだった。絶えず「交渉のやり直し」があり、「特別の注文」などもあったと関係者は漏らす。日本の代表団は、関係者の苦労をもう少し、理解してもらいたいものである。

ドイツの公共テレビARDには「hart aber fair」(厳しく、しかし、フェアに)という討論番組がある。エルマウ・サミット閉会後、この番組でサミットがテーマになったが、数人の出席者のうち二人が、メルケル首相が「先進7カ国の首脳会議は共通の価値観を有する国々の首脳会議だ」と繰り返し強調することに異議を唱えた。そのうちの一人が価値観を共有しない人の例として日本の首相をあげたのは耳が痛かったことも、付け加えておく。

 

One Response to エルマウ城でのG7サミット、ドイツメディアはどう伝えたか

  1. こばけんぞう says:

    二酸化炭素で、地球の温暖化ということは真実なんでしょうか。
    化石燃料に別れを告げる、スローガンとして、魅力的です。エネルギー無料の太陽光や風力を利用する為に、どれだけ地球環境を自然光景をいためているだろうか。文明という麻薬を手に入れた人類は作用と副作用を弁えながら高度で贅沢な生活を貪欲に追い求めていくのではないでしょうか。化石燃料の事が出てきて、原子力は人類にとうてどう位置付けるのか、出てこなかったのですかね、サミットでは?何か片手落ちと感じます。