最新のガス火力発電を停止?

ツェルディック 野尻紘子 / 2015年3月15日

ドイツ電力最大手のエーオン(E.ON)社らが、最新型ガス火力発電の停止を考えている、というニュースが新聞紙面を賑わした。発電が採算に合わないというのが理由だ。停止が取り沙汰されるのはバイエルン州イルシングにある2010年と2011年に稼働を開始したばかりの発電装置2基で、容量は合計1400MWと原子炉並み。 効率が欧州最高の60%ということでも有名だ。

ガス火力発電は、化石燃料を使う火力発電の中で、二酸化炭素の排出量が最も少なく、環境に一番優しいとされる。また、停止から稼働、稼働から停止への切り替えも素早く、天候に左右される自然電力のバックアップに最も適しているともいわれる。

ところがドイツではここ数年来、再生可能電力の増加で電力が余り、電力の卸売価格が下落を続けている。昨年の卸売価格の平均は1MWh当たり33ユーロ(約4257円)にまで下がってしまい、これでは最新の技術をもってしてもガス火力発電では利益が出せない。利益が確実に出るのは燃料費が格安の褐炭火力発電だけで、石炭もかろうじて採算が取れているという状態だ。

「政府のエネルギー政策の変更で、イルシングの経営状況は非常に悪化しています」とエーオン社のスポークスマンは話す。そこで装置を停止するべきではないかと考えているのだそうだ。ただしこれは正確にはむしろ、「イルシングの発電を止めるぞ」と政府に対し脅しをかけているようにも見える。どちらにしてもドイツでは電力会社が簡単に発電所を閉鎖することは出来ない。そのためには管轄当局である連邦ネットエージェンシーの許可が必要なのだ。

エーオン社によると、2基の発電装置は昨年、1kWhも市場用に発電していない。それでもまだ装置が送電網に繋がっているのは、同地域の送電網を運営・管理するテネット社と特別契約を結んで、同社に2013年の3月以来、送電網の揺れをカバーするためのリザーブ電力を提供しているからだ。その見返りとして、年間数千万ユーロ(約数十億円)が支払われているという。「この契約でやっと費用がカバーできています」とスポークスマンは言う。しかしこの契約は2016年の春に切れる。

テネット社と契約を更新することは可能なはずだ。しかしエーオン社らは、現在以上の収入と長期的な確約の取り付けを希望している。つまりドイツ政府に、ここ数年来市場で話題にのぼっている「容量市場」を導入させたいのだ。この「容量市場」とは、天候の変化に左右される自然エネルギーの発電量の変動をカバーするために、一定の発電容量を常時確保しておくための市場を形成することで、装置が多量に発電するか、あるいは少量しか発電しないかに関わらず、とにかく待機していること自体に対し、まず経費が支払われるという仕組みだ。

この経費は電気料金に加算されて消費者が支払うことになるので、ガブリエル連邦経済・エネルギー相は根本的に「容量市場」に反対だといわれる。しかしドイツ北部で多く生産される自然電力を南部ドイツに送電する基幹高圧送電網の建設に 住民などが強く反対しているバイエルン州のゼ−ホーファー州首相などは賛成しており、エーオン社らは彼らの支援を願っている。バイエルンの州首相は、「連邦経済相は電力会社の業務の将来性をはっきりと提示せず無責任だ」とまで主張している。

エーオン社らには当分、操業停止の申請を連邦ネットエージェンシーに提出する可能性がある。そうしても、許可は多分出ないだろうし、会社側も本気で停止を考えているようではなさそうだ。不許可となれば予備発電能力として待機するよう命じられ、それには補償金が支払われることになる。こちらの方がテネット社の支払う料金より多いらしい。「容量市場」が導入されるならば、もっと収入が増えるのだろう。2011年のドイツ政府の脱原発決定以来、経営困難に陥っているエーオン社などにとり、少しでも多い収入の獲得は非常に大切な課題となている。

この5月末には、政府の脱原発決定以後初めて、バイエルン州にあるグライフェンラインフェルド原発が 停止される。イルシングの容量はこの原発の1345 MWより大きい。なお、イルシングを操業しているのは、エーオン社のほか、ニュールンベルグのN-Ergie社、フランクフルトの Mainova社、ダルムシュタットのHSE社だ。

 

 

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