日食でブラックアウトの危機?

ツェルディック 野尻紘子 / 2015年3月1日

この3月20日午前、北ヨーロッパでは日食が起きる。そうなると太陽は月に覆われてしまい、太陽光発電が一時途絶えることになる。ドイツだけでも設置されている太陽光パネルの容量は約40GWと莫大だ。日食で発電が一斉に止まり、その後また一斉に始まるとどうなるのだろうか。

今回の日蝕は皆既食で太陽が完全に月に覆われるのはアイスランドやデンマークのフェローズ諸島、ノルウエーのスピッツベルゲン島など北極圏に近い範囲だ。ドイツの場合、南のミュンヘン地域が65%、北のハンブルク地域が80%の部分食になる。日食が始まる時間はドイツ語圏の場合、スイスのベルンが9:45、ドイツ北部のメクレンベルク・フォアポメルン州で9:40、終わるのはベルンが11:45、ドイツ北部は12:00という。

この日に日食が起きることは相当以前から知られており、関係者にとっては、ブラックアウトを起こさせないための大きなチャレンジとなっている。そこでヨーロッパの送電網運営会社連盟である Entso-E は、3月20日に事故が起こらないために各国の送電網会社が協力し合い、種々方策を取るよう指導してきた。「どこも快晴で、制御盤上の太陽光電力が目に見えて減り始め、後では逆に、急に増え出すということを考えると、相当緊張します」と同連盟の コンスタンティン・シュタシュス事務局長は話す。

ドイツではテネット、50ヘルツ、アンプリオン、トランスネットBWの送電網運営会社4社と連邦ネット・エージェンシーが協力して対応に当たる。 例えば、太陽光パネルが多く設置されている南ドイツの送電網を管理・運営しているテネット社では、従業員がその日前後に休暇を取ることを禁止しており、周波数管理・指令センターの技術者は通常の2倍から3倍配置するという。

日食が始まり太陽光発電が止まる場合には、送電網の安定のために、代わりの電力を送電網に送り込まなければならない。また日食が終わり、太陽光電力が送電網に送り込まれるようになると、今度はその代わりの電力を切らなくてはならない。初めは、電力会社が常時抱えている制御用電力が導入される。その後、反応の速いガス火力発電所が稼働することになるだろう。石炭火力発電も必要になるかもしれない。日食が終わる際に、太陽光電力などが充分にあれば、逆の順番で発電が切られることになる。連邦ネット・エージェンシーによると、15分単位の容量の変化が9GWになるという研究報告がある。9GWは原子炉約9基分の容量に相当する。快晴の場合、日食の始まる時点の太陽光発電容量は17.5GW、その後1時間後は6.2GWに低下、日食終了後の12:00には25GWに上昇するというベルリン技術経済大学の計算も発表されている。

特に問題視されているのは日食が終わる時点だそうだ。その時は正午近くで、通常だと太陽光が最も強い時間帯だ。どれだけの太陽光電力が発生するかは天候に大きく左右される。晴天で、急に多量の電力が発生されると、問題はより大きくなる。再生可能エネルギーである太陽光電力は、ドイツの場合、再生可能エネルギー優先法(略称:再生可能エネルギー法、EEG)で優先的に送電網に取り込まれることが決まっている。ただ、管轄省庁である連邦経済・エネルギー省は、予防的に太陽光電力の送電網への取り込みを下降調整するよう勧めていると伝えられる。しかし、個人の家の屋上にあるような小規模装置は外部から制御出来ない場合が多いともいわれる。

電力消費者がその日、どのように電力を消費するかも未知数の一つだ。世の中が暗くなったら、彼らは電気を付けるだろうか。それとも日食観察のためにみな屋外に出ているだろうか。その日の風の強さも無視できない。風が強ければ風力電力も影響を与えるからだ。

気象学者によると、このころの北極圏の天候は深い霧に覆われる可能性が高いという。ドイツなどでも、電力のことだけを考えると、悪い天候が望ましいのだが、それがどうなるかは全く分からない。確率の高い天気予報は二日前にならないと出ないそうだが、連邦経済・エネルギー省をはじめ関係者の大半は、この日食が無事に乗り越えられると見ているようだ。

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