村上春樹さん、ヴェルト紙で語る

まる / 2014年12月7日
村上春樹さん作品が並ぶ棚  ベルリンの本屋さんで

村上春樹さん作品が並ぶ棚
 ベルリンの本屋さんで

毎年ノーベル文学賞候補として名前が挙がる村上春樹さんは、ドイツでも大人気作家の1人です。私の周りにも、『ノルウェーの森』や『1Q84』を読んだという人はけっこういます。今年の秋にも、ノーベル賞受賞こそなりませんでしたが、ドイツの日刊紙「ヴェルト(Die Welt)」による「ヴェルト文学賞」に選ばれて、ベルリンでの表彰式でスピーチを行ったことは、日本の各メディアが取り上げました。実はそれに先立って、同紙の日曜版(11月2日)で稀なインタビューが掲載されていました。ちょうど1週間後にベルリンの壁崩壊25周年を祝うタイミングだったため、このインタビューは「ベルリンの壁が崩壊した時には、どちらにいらっしゃいましたか?」という質問で始まっています。当時ローマにいた村上さんは、ハンガリーやチェコスロバキアを経由して西側へ逃れた東ドイツ市民がテレビで語るのを見て、状況がエスカレートしつつあるのを感じていたそうです。

「その他に心を揺るがされた歴史の瞬間は?」という質問には、「9.11」と「フクシマ」を挙げています。それに関連して、日本のエネルギー政策や小説家としての政治的影響力などについても語っているので、抜粋して翻訳してみました。

質問「ドイツはフクシマへの反応として、脱原発を決めました。日本人がまだ原子力を頼りにするのは非常に不思議に思えるのですが……」

村上氏「それは私の心にも本当にひっかかっていることです。正直、なぜ日本人が反原発に動かないのか全くわかりません。もしかしたら私がそれについて書かなければならないのかもしれません。でもそれについては今のところ私が言えることは少なく、とても長い話になるでしょう」

質問「小説の素材になりますか?」

村上氏「まだ分かりません。でも私は声明を出したりするつもりはありません。日本国民の心についての話を書きたいのです。小説になるかもしれないですね」

質問「あなたは2011年に、日本は広島と長崎の後、原子力は放棄するべきだとおっしゃっていました」

村上氏「そうです。でも私はそれ(政治的な発言)に関して非常に控えめです。私の仕事は小説を書くことですから」

質問「でもあなたはその人気で、他の人よりも影響を与えることができるのでは?」

村上氏「いや、私はそうは思っていません。もちろんある程度の責任は感じています。時として自分の見方をはっきりさせなくてはなりません。東京で起きた地下鉄サリン事件の後には『アンダーグラウンド』を書きました。エルサレムでのスピーチでは中東問題について話をしました。でもそれ以来何も変わっていません。自分のできることに関しては、非常に懐疑的です。自分は小説を通しての方が、もっと影響を与えられると考えています」

質問「あなたは、政治的な活動が作家にとって当然だった時代の影響を受けていらっしゃいますね。それは間違いだったでしょうか?」

村上氏「私は常に政治的な人間です。私が大学生だった1968年くらいの頃は、世界中で革命の時代でした。日本でもそうです。私はとても理想主義的で楽観的でした。世界はどんどん良くなると思っていました」

質問「そして今は悲観的なのですか?」

村上「私たちが悲観的になる理由は沢山あります。でも私はいまだに、心の底では、理想主義の持つ力を信じています。この思想主義が、私が執筆する上での機動力の要素となっています」

インタビューのこの他の部分(大部分)では、作品作りの過程や登場人物の話をしていて、村上春樹ファンにとってはとても興味深いものとなっています。

http://www.welt.de/kultur/literarischewelt/article133972630/Freier-Wille-Was-soll-das-sein.html

フクシマや日本のエネルギー政策を背景とした日本人の心の話。村上春樹さんの筆で早く読みたいものです。

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