捨てた家電製品はいったいどこへ? くずを追え その1

やま / 2014年10月12日

Weee Man 1 kl映画007ダイ・アナザー・デイ(Die Another Day)の舞台となった球面ドーム(ジオデシック・ドーム)は英国の建築家グリムショーの設計です。今回イギリスのコーンウォール州を旅行した際、軽量で大きなスパンを覆うこの建築を見ることができました。この球面ドームが建つ、世界の自然環境をテーマにした「エデン・プロジェクト」は、楽園「エデンの園」を思わせる植物公園施設です。そこにはまったく不似合いな“巨大お化け”があって観光客の関心を集めていました。「What is WEEE Man?」

WEEEとはWaste Electrial and Electronic Equipmentの省略です。“巨大お化け”はイギリス人が一生の間に捨てる家電・電子機器廃棄物を集めて作ったもので、その量は1人当り平均3.3トン。まだその量が想像できない人のために括弧して「それは、もしあなたが毎年160個の携帯を捨てるとした量に相当します。それも一生涯ずっと…」と書かれています。

壊れたら新しいものに買い換える。新製品が出たらどうしても手に入れたい。世界中で大型及び小型家電廃棄物が増加しています。ゴミはどこへ “消えてしまう”のでしょうか?それを突き止めたのは「Follow the Money」というドイツのジャーナリストグループでした。彼らの承諾を受けて、オンライン版ディ・ツァイト(Die ZEIT Online)の経済欄に掲載された記事を訳して以下にご紹介します。

Weee Man 2 kl記者:Carolyn Braun, Marcus Pfeil, Felix Rohrbeck, Christian Salewski

家電・電子機器廃棄物:

くずを追え

ハンブルグで使い終わった一台のテレビが5750kmの旅に出る。ゴミとなったテレビで誰が儲けているのか。GPS送信機と小型無人飛行体による取材レポート

我々の取材の発想は地球の果てから届いたこの写真で始まる。アフリカのあるゴミ置き場に、ゴムぞうりをひっかけたおよそ12歳の少年が立っている。古いテレビのブラウン管を頭上に引き上げている。コードが解けた黒い煙が見える。小さい半裸の子供たちが銅線をモニターからほじくり出している。そばから黄色い蒸気が上がっている。

このような写真をマスメディアは定期的に取り上げる。そして写真には「ドイツで捨てられる家電機器はアフリカに届く」というような説明が常にある。

しかしゴミがどのようにアフリカにたどり着くのか、という説明はない。

国連の推測によると、ドイツ市民が捨てている家電・電子機器廃棄物の量は毎年200万トンに上る。テレビ、パソコン、DVDプレーヤー、ステレオ、スピーカー、冷蔵庫、スマフォなど、全ての機器に砒素、鉛、カドミウム、水銀のような有毒な金属が含まれている。

わずか70万トンが国内のリサイクルシステムに戻る。残りの130万トンはどうなったのかは誰も知らない。ただ消えてしまったのか?その大半は実はアフリカへ送られている。

しかし、なぜ古い壊れたテレビを何千キロメートルも離れた国へ輸送するのだろうか。かかる経費は高い。ドイツのくずを国外に輸出して、だれの利益になるのか。だれが儲けているのか。

思いついたこと:古い壊れたテレビにGPS受信機を設置する。それをゴミとして処理する。GPS受信機により、1メートル、1メートル、テレビの跡を追うことができる。テレビがもしアフリカに着いたとすれば、どのようなルートを取ったのか知ることができる。どのような取引きがあり、どの貨物船に積まれたのか。最終的に廃棄物におけるグローバルビジネスのからくりと儲けが明らかになる。これが我々の計画だ。

同僚が壊れたブラウン管テレビをくれた。ソニー製のトリトロンKV-21FX30E、画面サイズが55cm。2001年に発売された。その当時初めて液晶テレビが市場に出た。いまではブラウン管テレビを持つ家庭はドイツではほとんど見られない。このタイプは数年前から、もう販売されていない。

GPS受信機をバッテリーと共にテレビのスピーカー部分に隠して設置した。これからどれぐらいの間、テレビが世界を回るか、わからない。だから電池が数ヶ月持つようにした。必要であれば数日間スリープモードに切り替わる受信機を技術者が設置した。これで節電できる。テレビが動くとGPS受信機は“目覚めて”現在位置を送信する。

ゴミを処分するのに一番楽な方法は家に取りに来てもらうことだ。ドイツの多くの都市では回収サービスを行っている業者がたくさんいる。不用になった家電を無料で取りに来てくれる。壊れたテレビが、ただのくずではないということを示す最初の証拠だ。

ネットを検索して、ハンブルグのある小さな業者の広告を見つけた。「無料で家電回収。こわれた家電まで回収致します」とある。そのあとに続くのは長いリスト。「洗濯機、冷蔵庫、冷凍庫、電気コンロ、タンブラー、電子器具、オーディオ、モニター、(カラーでも白黒でも可)、営業時間9時~22時」。上記に携帯番号が載っている。

我々は早速電話をかけてみる。男が電話に出る。(ドイツ語に)少しなまりがある。期日を決める。数日後、時間どおりにハンブルグ・アイムスビュッテルにある我が家の玄関のベルが鳴る。エレベーターが4階にがたがた上がってくる。降りたのはグリーンのパーカーを着た男だ。灰色のベースボールキャップをかぶった男は笑顔で挨拶する。彼は台車を前に押す。テレビを乗せている間、我々は問いかける。

Weee Man 3 kl「何台、家電を回収しますか」。
「1週間に1ダース(12台)ほどです」。
「回収してどうするのですか」。
「こわして処理します」。

テレビとともに立ち去る前に、彼は名刺をおいていく。「FMS Farah Mohamed Saber」彼の名前はファラー・モハメド・サバーだ。

F.M.サバーがテレビを白いライトバンに乗せているのを、バルコニーからのぞく。テレビを積んだ車は動き出す。

約30分後に、携帯が振動する。技術者がインストールしたアプリだ。クリックするとデータが現れる。

時刻:11時30分18秒
経度;10,051106.
緯度;53,557134.

経度と緯度がただちにGoogleマップにリンクされる。ハンブルグの東部に小さな点が見える。徐々にズームアップしていく。テレビは今、ここから東へ8km離れたところに置かれる。ハンブルグのハム地区にある小さな裏通りだ。

さらに多数のシグナルを受信する。その地点を結んでいくと、テレビを持って行ったF.M.サバーが、あちこち走り回っていることがわかる。他の家電を回収している。しかし、廃品をどこへ運んでいくのだろうか。

2時間後、テレビの位置が変わらない。受信度が強いということは、どうやらテレビはライトバンから出されて外に放置されたらしい。

どこからシグナルが発信されているか車で探ってみる。ハンブルグのローテンブルグ地区、中央駅から南東へ約5km離れた所だ。そこは左手が運河、右手には線路が並ぶ。

この「ビルシュトラーセ」の始まるところにはガラス張りのオフィスビルと大手運送会社の巨大な倉庫が建つ。後ろのほうにはガレージ風の通関業者の建物が続く。鉄格子で囲まれた業者の敷地には古い洗濯機や冷蔵庫が積まれている。歩道には電気コンロやテレビが置かれている。その横には小型トラックやライトバンが停まっている。

携帯のディスプレーに2つの点が見える。第1はテレビで、第2は我々の位置を示す。第2の点が第1の点に近づいていく。我々はテレビと数メートルしか離れていないところにいる。

又、鉄格子で囲まれた敷地があり、そこも古い家電機器でいっぱいだ。1人の男が近づいてくる。テレビを取りに来たグリーンのパーカーに灰色のベースボールキャップの男だ。気づかれないように頭を下げ、男のそばを素通りして敷地に入る。

壊れたテレビ、古びたフィットネス器具とハーゲンダッツ社の冷凍庫に囲まれ、白髪交じりの男が3人座っている。魔法瓶から紅茶を注いでいる。彼らは我々を見つけて何を探しているのかと問いかける。まだ使える冷蔵庫を探していると答えると、彼らは笑う。

Weee Man 4「ここにあるものは全てクズさ」
「この電気器具はどこへ行くのですか?」
「アフリカへ」

注目すべき情報だ。というのは、ドイツでは、家電廃棄物をOECD加盟国以外の国へ輸出することは禁止されている。それは2005年に家電・電子機器廃棄物処理法により決められた。ドイツ政府は開発途上国が、我々がすてた有害なゴミの最終処理所になることを防ぐべきだと考えている。

そうであれば、なぜ彼らは禁止されていることを、ずばりと話すのだろうか。

我々の推測:おそらく彼ら自身は家電廃棄物をアフリカへは送っていないのだろう。最終的にどこへ家電廃棄物がたどり着くかは知っているが、彼らは単なる仲介業者だ。ドイツ国内で家電廃棄物の売買はしかも禁止されていない。

しばらく敷地を見回った。モニターと電子レンジとの間のどこかに我々のテレビがあるはずだ。裏側に番号で目印をつけておいたのだが…。時間がない。業者たちは不信そうに見る。

実はジャーナリストだと話すと、たちまち彼らの反感を買う。インタビューは拒否される。1人の男は「立ち退かないとぶん殴るぞ」と叫ぶ。我々は急いで車に逃げ込む。1人の男がリア・ウィンドーをものすごい勢いでたたく。

1日目が終わって明らかになったこと:我々にとっては壊れたテレビは価値がない。しかし人によっては儲け仕事らしい。廃品回収業者であるF.M.サバーは時間とガソリン代を費やし、壊れたテレビを無料で取りに来て、仲介業者のところへ運んだ。仲介業者は彼にいくら払ったのか? 続く

原文:
ZEIT ONLINE, Wirtschaft, Elektroschrott,” Auf der Jagd nach dem Schrott“, von Carolyn Braun, Marcus Pfeil, Felix Rohrbeck, Christian Salewski

 

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