安いたまごの高価な犠牲

やま / 2014年2月16日

eier投売り品で定期的に消費者の関心を引く割引スーパー。「値下げしました! たまご10個で99セント!(体感価格99円)」この広告につられ、店で他の食料品も買ってもらうのが狙いです。競合スーパーも負けずに値を下げていきます。市場メカニズムがうまく機能して、消費者は都合の良い値段で食料品を購入できます。消費者は本当に得したのでしょうか。「安いたまごの高価な犠牲」1) という新聞の見出しに興味を引かれました。


ドイツでは5つの割引スーパーが食料品市場の4割以上(2011年統計)を占めています。全国に多数の支店を持つ割引スーパーの売り上げは毎年上昇しています。なぜならば、割引価格で販売するスーパーは人気があり、大量販売をして、利益を上げています。その一方、生産者である農家の収入は下がるばかりです。仮に消費者が食品に1ユーロ支払ったとしても、ドイツでは生産者の得る収入は平均約25セントだそうです。ちなみに、1970年代前半の収入は今の2倍。記事の一部をまとめてみます。

たまご10個が99セントとなると経営困難に陥るのは養鶏場経営者だ。その多くは借金を抱えている。それは、公害問題の多い従来型バタリーケージ飼育がEU諸国では禁止になり、農家は養鶏場の近代化に大金を投資したからだ。新しい養鶏場は効率が良く、以前よりも大量なたまごを生産するようになった。そしてたまごの市場価格が下がったのは皮肉かもしれない。

実は安いたまごの犠牲者は生産者だけではない。たまごの価格が下がるため、生産者は経営費を下げ、利益を確保していかなければならない。そのために超格安な飼料を与えたり、くちばしの切断、抗生物質の使用など飼育環境の基準を下げていく。そして結局、消費者は安心して健康な鶏のたまごが買えなくなる。

割引スーパーは市場を支配している。農家Aが安価で品を卸せなければ、その価格で生産できる農家Bを他国で探せばいいと割引スーパーはおどしをかけてくる。となれば、ドイツの農家は「大量生産に頼れば将来のチャンスがつかめる」と考えるのはやめたほうがいいと割引スーパーはおどしをかけてくる。これからのドイツでは有機農業など高い生産基準と動物保護を考慮した農家だけが生き延びるだろう。

veggie box

昨年度の自然食品に対する需要はその前の年を6%上回りました。最近では、割引スーパーも手ごろな価格で自然食品を売り出しています。3~4割のドイツ人は優先的に自然食品を買っているそうです。しかし割引スーパーに自然食品を安価で卸す農家には将来性はあるでしょうか、と考えると、農家が自身を持って売価を決めている例がいくつか思いつきました。

たとえば、埼玉県にある霜里農場2) を営む金子さん夫婦はすでに1970年代から「地産地消・提携」をはじめています。この経営方法を取り入れる農家がヨーロッパやアメリカでも増えつつあります。消費者の多くは都市に住む単身者。量よりも質にこだわり、信頼のおける農場をネットで検索し、季節の野菜を注文するインターネット世代です。

コンピューターに向かうかわりに、私は市場でたまごを買っています。ベルリンの壁崩壊後、毎週土曜日、旧東ドイツで農場を営むSさんは有機栽培の野菜を青空市場で売っています。赤札価格はありませんが、経営者のSさんにとっても、毎週訪れる消費者にとっても無理のない値がついています。私はかれこれ20年以上、家の近くに立つこの青空市場で、Sさん農場の野菜とたまごを買っています。鶏が狐にさらわれてこまったこと、買い入れた若鶏がはじめは“小型たまご”しか産まなかったこと、たまごの殻が淡い緑色になったことなど、Sさんのたまごの値段には「こぼれ話」がおまけについてきます。

1) Der hohe Preis der Billig-Eier, Süddeutsche Zeitung, Daniela Kuhr

2) 公式ウェブサイト, http://www.shimosato-farm.com/

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