原発メーカーを訴える

まる / 2014年2月9日

福島原発事故の責任は誰にあるのでしょうか? 東電? 国? 1月30日、東京地裁で、32カ国1415人が原発メーカー3社を相手に訴訟を起こしました。この「原発メーカー訴訟」の会事務局長、崔勝久(チェ•スング)さんに、ベルリンでお話をうかがう機会がありました。

だいたい、福島原発の原子炉をつくったのがどこのメーカーかを知っている人が、どれだけいるでしょうか? それはGE(ゼネラル•エレクトリック)、日立製作所、東芝です(1号機はGE、2号機はGEと東芝、3号機は東芝、4号機は日立)。でも、日本の原子力損害賠償法(原賠法)は、原発事故の賠償責任を電力会社だけに限定しており(これを「責任集中制」というそうです)、メーカーは免責されています。だから、これらのメーカーは福島の大惨事後も何の責任も問われることなく、は原発を外国に輸出しようとしてさえしています。日本政府も、安倍首相が自らトルコやベトナムにトップセールスに出かけるなど、福島原発事故を起こした当事国とは思えない動きをしています。

崔さんによれば、日本の原賠法は、「GEが日本初の原発をつくる時に作った法律」だそうです。当時はまだ原発の技術とノウハウを持っていなかった日本は、製造者責任を追及しない法律を作らなければ、原発を動かすのに必要な濃縮ウランを渡さないと米国や英国に強く迫られて、そういう法律を成立させたのだそうです。そして、GEの原子炉はマークI型といいますが、欠陥があることは分かっていながら日本に輸出され、それについては1976年に設計者が米国の上院で証言しました。

そもそも、この原賠法自体が憲法違反なのではないか? 国籍や民族に関係なく、「原子力の恐怖から逃れて生きる権利があるのでは?」ということで、この権利が侵害されていると裁判で主張するそうです。また、メーカー3社に責任を認めさせることが目的であり、求める損害賠償額の問題ではないので、原告一人当たり100円と低く抑えたということです。

2011年3月11日、福島原発事故を見て、「人間、国籍に関係なく、死ぬ時は死ぬ」と思った崔さんは、在日韓国人でキリスト教徒です。子供のころは日本名を使って生活し、大学入学時に本名を名のるようになり、卒業後は在日韓国人問題研究所の初代主事になった方です。居住地である川崎市などで「在日韓国・朝鮮人が本名で生きていける社会を作る」ため、さまざまな地域活動もされてきています。

さて、「原発メーカー訴訟」の会を代表するのは、自称“ロックン•ローヤー”の島昭宏さんです。「ロックンローラーでは世界は動かせない」と40歳で弁護士に転身したそうで、2012年に「シロクマ公害裁判」を起こして注目されました。(島昭宏さんによる「原発メーカー訴訟の法的根拠について」の説明はこれを参照→訴訟の法的根拠

崔さんは、「島さんがシロクマを原告に裁判を起こす発想のある人だからこそ、今回の裁判もできる」と言います。そして、崔さんをさらに力づけているのは、約40年前に関わった「日立闘争」で全面勝利した時の経験です。

1970年代初頭、当時18歳だった朴鐘碩(パク・チョンソク)さんが、当時使っていた日本名を使って日立製作所の入社試験を受けました。就職は内定したのですが、後日、朴さんが在日韓国人であることが分かると、日立は内定を取り消しました。そこで、朴さんは日立製作所を訴えました。日立は「そんな嘘をつく人間は雇えない」と内定取り消しを理由付けたものの、内部告発があり、実は「身体障害者、熱心な創価学会会員、共産主義者、外国人は雇わない」という社の方針があったことが明らかになりました。この闘争は日本国内外でも大いに注目を浴び、韓国や米国などで日立製品の不買運動が起きました。結局日立は、それまでにそのような差別があったことを認め、将来的には国籍や民族などによる差別をしないという誓約書に当時の常務が署名、決着が付いたそうです。そして、これをきっかけに、在日韓国•朝鮮人の方々の、日本企業での就職の道が開かれました。朴さんは、4年かかった裁判の後、日立製作所に就職。2013年夏に定年退職されました

崔さんは、モンゴル、台湾、フィリピン、インドネシアなども廻って原発体制に抗する国際的な連帯を作ることにも尽力されています。「福島に原発があることと沖縄に米軍基地を押しつけることは、弱いところ弱いところに犠牲をしわよせすることで共通している」と京都大学の小出裕章さんは言っていますが、これらの国々に原発を輸出したり、核のゴミを押し付けたりするのも、差別と格差を輸出すること、新たな植民地体制を作ることと同じだと私は思います。

また、ここ数年、在日の方たちに対するヘイトスピーチが日本の各地で堂々と行われていることは、ドイツにも伝わっています。スピーチの内容を聞くと恐ろしくなるし、日本がそんなことが許される社会であることにショックを受けます。そして私は、日本に住んでいた頃の自分が、在日の方たちに対する差別を意識しなかったのはなぜだろうと思っていました。崔さんのお話では今でも80〜90%くらいの在日の方たちが日本名を使って生活されているということです。ということは、彼らが私に見えていなかっただけ、だから意識もなかったのではないか、それって原発問題と一緒ではないかと思いました。「見ざる聞かざる」の日本社会では、見えないものは存在しないも等しいのです。

日本へ帰国された崔さんから届いたメールには、「今回のドイツ訪問で、私は在日として生きて求めて来たことと、今回の原発メーカー訴訟がいかに深くつながっているのか、その延長上にあるのかということをしっかりと理解いたしました」と書いてありました。

ベルリンで、「今回の訴訟は第2の日立闘争になるかもしれない」ときっぱりおっしゃった崔さんには、覚悟というか、自信さえ見られました。40年の時を経て、再び、世界の差別と抑圧と戦う舞台がやってきた。そんな感じがして、私もわくわくするのでした。

「原発メーカー訴訟」の会では、現在も、今年3月初旬に予定する第2提訴に向けて、世界中で原告を募集しています。原告になる条件は「福島原発事故で精神的ショックを受けた」こと。国籍や居住地は問いません。日本国内在住の原告は年間2000円を払うことになっていますが、海外在住の場合は無料です。

原告になりたい方、応援したい方はこのリンクをご参照ください。

http://ermite.just-size.net/makersosho/company.html

訴訟の日本国内外での反応

http://ermite.just-size.net/makersosho/detail.html

崔 勝久さんのブログ

http://oklos-che.blogspot.de/

3 Responses to 原発メーカーを訴える

  1. 佐々木あずさ says:

    北海道十勝の佐々木です。こんにちは!また、私は「みどりの1KWH」の扉を開いて、日本のことを知りました(笑)。原発メーカー訴訟の件、初めて身近に感じることができました。崔さんたち在日の方たちが、日本で差別雇用の扉を開いてくれたことも初めて知りました。異なるバックグラウンドを持つ人間が、顔を突き合わせ、またはメールで言葉を交わしながら、この国を変えていくのですね。私も一緒に歩みます!これからも繋がっていきますので、よろしくお願いいたします。

    • まる says:

      佐々木さま
      コメントをいただき、ありがとうございます。ほんとうに、崔さんのお話は私も知らないことばかりで、目を丸くして聞きました。原発問題は、日本に住むさまざまなバックグラウンドを持つ人たちを”分断”するだけでなく、”統一”もすると思いました。みどりの1kWhをこれからもよろしくお願いいたします。

  2. Pingback: 原発輸出に待った! ドイツ政府、保証を打ち切りに  | みどりの1kWh