上昇気流に乗る日本共産党

永井 潤子 / 2014年2月2日
日本共産党の党大会の様子を伝える「フランクフルター・アルゲマイネ」紙

日本共産党の党大会の様子を伝える「フランクフルター・アルゲマイネ」紙

ドイツのメディアの特徴の一つは、立場の違う他の新聞やテレビ・ラジオの主張も紹介することで、各新聞には他の新聞の主張を紹介する紙面があるほか、ドイツ全国で聞くことができるラジオ放送「ドイチュラント・フンク」などは、1日に何回も内外の新聞論調を伝える番組を設けている。私たちのサイトもこうした伝統に従っているが、今回はドイツの代表的な全国新聞フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ、Frankfurter Allgemeine どちらかというと保守的)がこのほど掲載した日本共産党に関する記事をご紹介する。

今年1月18日の紙面に掲載された東京特派員のカ―ステン・ゲルミス記者の記事の見出しは、「熱狂に理由あり 上昇気流に乗る日本共産党」というもので、上多賀発となっている。ドイツの読者にとって、ほとんどなじみのない静岡県伊豆半島の上多賀という町から記事が発信されているのは、ゲルミス記者が同地で1月15日から18日まで開かれた日本共産党の第26回党大会を取材したためである。

「『日本は自由民主党と共産党の対決という新しい段階に入りました』という志位和夫委員長の挨拶が、大会参加者に初めからかなり熱狂的に迎えられた」と書き出したゲルミス記者は、過去何年かの間忍び寄る没落状況にあった日本の共産党が今かつてないほどの人気を集めていること、特に若者たちが新しく党員になっていること、安倍晋三の自由民主党政権に真の意味で対抗できる野党は共産党しかないと考える日本人が増えていることなどを説明している。そしてその理由は、安倍首相の率いる自由民主党が市民の権利を制限しようとしたり憲法で認められている基本的人権を狭めようとしたりし、さらには軍事大国を目指し、大企業に有利な経済政策をとろうとしていることにあると分析する。

そうした日本の政治状況を説明したゲルミス記者は、上智大学教授の政治学者、中野晃一教授を登場させている。「現在の共産党の議会での勢力は小さなものです。1990年代半ばまで共産党と社会民主主義陣営は議会で合わせて3分の1を占めていました。今日ではその勢力は全体のわずか3%以下に下がってしまいました。にもかかわらず、日本共産党は政策面で国家主義的で保守的な安倍政権に決然と対抗し、闘うことのできる唯一の政党なのです」と中野教授。教授のこの言葉を受け、同記者の党大会報告は続く。

東京から列車で1時間ほどの距離にある同党の施設で18日まで第26回党大会を開いた日本共産党の志位委員長と党員たちの自信に満ちた態度は、中野教授の言葉でも裏付けられる。日本共産党は、安倍政権を挑発する野党の中心勢力となり、日本の戦後憲法の救世主となる意図を隠そうとしない。このいわゆる平和憲法は1945年の敗戦後、戦勝国のアメリカから押し付けられたものであるにも関わらずである。安倍首相にちなんでその経済・財政政策はアベノミクスと呼ばれるが、志位委員長が党大会の初めにおこなった演説ほど、その矛盾を的確に指摘した政治家の演説を知らない。アベノミクスが成功するのは国内需要が増す場合に限るため、安倍首相は企業に対して、従業員の給与を上げるよう要求している。安倍首相が大胆な金融緩和政策をとり始めて以来、株価は値上がりしたものの、日本銀行によると日本人の3分の1以上が貯金を持たなくなっている。貯金のない人の数がこれほど多くなったことはないという。そのうえ安倍首相は、今年中に社会保障費を削り、安い賃金の職場を増やす意向だ。「政府は賃金を引き上げなければならないと言うが、実際は賃金引き下げの政策を行っている、どこに一貫性があるのか」と志位委員長が党大会で問いかけると、盛んな拍手が起こった。

ここでゲルミス記者は、ドイツ人読者のために、安倍政権成立以降の日本の政党勢力図についての解説を挟んでいる。「国家主義的な自民党の安倍政権がもてはやされ、右派の日本維新の会は存在感を失ってしまった。民主党などの社会民主主義陣営は縮小し、分裂を重ねて、影響力を激減させている。その結果、従来からの主張をぶれずに貫いている共産党の支持率が上がっている」という説明の後、「昨年の夏の東京都議会選挙で、日本共産党は初めて民主党よりも多くの議員を当選させ、都議会の第2党になった」という事実も紹介している。同記者の日本共産党の党大会の報告はさらに次のように続く。

確かに日本共産党の支持者は増えており、志位委員長と党員は今回の党大会で党員の増加と党の躍進を喜び、「安倍政権に対抗する真の野党は共産党である。本格的な自共対決の時代を目指そう」と盛り上がった。それでも、政治学者の中野教授は、彼らの期待は過剰だとみなしている。その理由は、第一に小選挙区制という多数派に有利な選挙制度のためだ。この制度のせいで、共産党は勝利の突破口を速やかに開くのを妨げられる。また、たとえ、共産党が国会で10%を獲得したとしても、それだけでは十分ではない。共産党が他の政党と連立を組むことは不可能のように思われるからである。

ゲルミス記者は最後に、若手党員の例を挙げてこの記事を締めくくる。「日本共産党の希望の星の一人は、吉良佳子氏である。昨年の参議院議員選挙で何年ぶりかに共産党候補として直接選挙で勝利をおさめることに成功した。31歳の美しい女性で、原理主義者ではない政治家である。その彼女ですら、『民主連合』とは議会外の市民運動と結びつくことであって、議会内の他の野党と結びつくことではないと考えている」。

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