イタリアでグローバル化について考える(5) 〜メディア、金融、労働〜

みーこ / 2014年1月5日

この秋の2か月半のイタリア滞在で感じたことを書いてみるシリーズ。最終回の今回は、メディア、金融、労働について。

ジェノヴァのガリバルディ通りの貴族の旧邸宅の天井画。どの邸宅の装飾も見事だった。

 

新聞社発行だが読むところのない雑誌

「ラ・レップブリカ」紙の付録の雑誌「D」。掲載写真はどれも美しく、ファッション雑誌のよう。

イタリア滞在中、最大の発行部数の全国紙「ラ・レプッブリカ(La Repubblica)」を何度か買って、ざっと見てみた。大手の全国紙であり、中道左派的論調をとる硬派な新聞ということだから、日本で言えば朝日新聞に近いかもしれない。

イタリア語ができないので内容はよくわからなかったのだが、毎週土曜日についてくる「D」という付録の雑誌が気になった。この雑誌は結構分厚く、ピカピカのきれいな紙に全ページカラーで印刷されているのだが、ほとんど読む記事がない。服やアクセサリーの広告写真ばかりのファッション雑誌みたいだった。

この雑誌をめくりながら、あれこれ考えた。「硬派な新聞社が出している雑誌なのに、文字がほとんどない」「ユーロ危機などと言われているときに、よくこれだけの広告を企業から取り付けてきたな。普通、不況になると、企業が真っ先に削るのが広告費なのに」「日本では紙媒体が落ち目だけれど、イタリアではまだ健在なのか?」「しかし、これだけの企業から広告契約を取り付けておいて、企業のスキャンダルを暴く記事が出せるのだろうか。メディアの独立性という意味で問題なのではないか?」など、思考を巡らせる。

こう書くと批判一方のようだが、写真自体はとても美しく、思わず見入ってしまうものが多かった。このシリーズ第1回の記事の「消費は美徳?」の項目でも書いたが、イタリアではこういうパターンが続いたように思う。つまり、「真面目に考えると問題だけど、何だか楽しいしきれいだしおいしいから、まあいいか」と思ってしまうパターンである。

 

カネが世界を牛耳るのが普遍の真理?

私が住んでいたジェノヴァは港町として発展し、一時は地中海を制したと言われるほどの繁栄を誇った街だ。しかし、ジェノヴァの繁栄の秘密は港だけではなかった。この街には、ヨーロッパ最古の金融機関の一つである1406年(または1407年)設立のサン・ジョルジョ銀行がある。銀行がお金を貸し付けることで、貿易や商業が繁栄したのである。

そう言えば、最近「世界の富を握っているのは、ほんの少数の資産家や企業だが、とくに金融機関とエネルギー産業が結びついた企業複合体がカネを牛耳っている」という趣旨の記事を読んだことがある。

「やはり金融業を牛耳る者が、世界を制するのか……」などと考えながら、ジェノヴァの街を歩いていたところ、もう一か所、非常に象徴的な場所を見つけた。世界遺産にも指定されている、中世の貴族の豪邸が並ぶガリバルディ通りである。この通りで邸宅が普段も一般公開されているのは3軒のみ。ほかの邸宅の多くは、銀行がオフィスとして使用しているのだ。そのうちの1軒は、EUで最も経済が好調なドイツのドイツ銀行。しかも富裕層相手に投資アドバイスをおこなうプライベートバンク部門になっていた。

 

スト! デモ! 戦うイタリアの労働者たち

イタリア語がろくにできない私だが、ショーペロ(ストライキ)という言葉はすぐに覚えた。イタリアでは、ストが非常に多いからだ。そのうち、10月にあったイタリア全土の公務員ストと、11月のジェノヴァの公共交通機関の5日間のストは、とくに大規模なものだった。

ジェノヴァの街で見かけたデモ隊。規模に圧倒された。

後者のストとデモは、公共交通機関の民営化反対と、月額給与を1500ユーロ(約20万5000円)から1200ユーロ(約16万5000円)へと下げようとする当局への抵抗としておこなわれたものなのだと言う。(これは偶然、ジェノヴァに遊びに来ていた、まるさんとじゅんさんの街角取材による。)

「ユーロ危機で公共部門予算をカットしているとは言え、いきなり300ユーロも給料を下げられたら、誰だって困るに決まっている。イタリアの労働者、がんばれ」と応援していたのだが、長引いたストも私がドイツに帰る前日にやっと終わった。「交渉が成立してよかったね」と思っていたら、ドイツ行きの飛行機の中で読んだ英字新聞に「イタリアの国家財政改善計画は、EUの基準に達しておらず、EUの委員会が難色を示す」という記事が出ていて、複雑な気持ちになった。やはり財政改善には公共部門で働く人の給与カットが必要なのだろうか?

また、ドイツに帰ってすぐ、「失業や借金などの経済的理由により、イタリアの中高年男性の自殺が増えている」というネットの記事を目にし、悲しくなった。ステレオタイプかもしれないが、イタリア人にはやっぱり陽気で明るく人生を楽しんでいてほしいと思うのは、短期滞在者の感傷だろうか。

 

関連リンク
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