2014年はどんな年に? ドイツでの意識調査とメルケル首相の挨拶

永井 潤子 / 2014年1月5日

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ベルリンは日中の気温10度前後という暖かさのなかで、クリスマスと年末年始を迎えた。ブランデンブルク門前で催される大晦日のパーティーに今年世界各地から集まった人は、いつもより多い100万人以上にのぼり、にぎやかな花火とシャンペンで新しい年の到来を祝った。また、年末に発表されたアンケート調査によると、ドイツ人がこれほど楽観的な気持で新年を迎えることは久しくなかったという。

 

毎年、年末に新しい年を迎えるドイツ人の意識調査を行っているアレンスバッハ世論調査研究所のアンケート調査によると、今年、希望を持って新しい年を迎えるという人は57%で、去年と一昨年の49%を遥かに上回ったという。新しい年を不安とともに迎えるという人は12%で、これも過去2年に比べ数%下がっている。この調査は同世論調査研究所が12月1日から12日まで16歳以上の約1600人を対象に行ったもので、特に若い人たちの楽観的な傾向が目立つ。例えば16歳から20歳までのグループでは希望を持って新年を迎える人は72%に達している。次いで30歳から44歳までのグループでは63%となっている。それに反し60歳以上の人では希望を持って新年を迎える人の割合は46%に過ぎない。全体として希望を持って新年を迎える人の割合が今回より多かったのは1980年代後半の旧西ドイツ、東西ドイツ統一直後の1989年ぐらいだという。同研究所は楽観的な人が多かった理由として最近の経済の好況、雇用状態の安定が反映されていると見る。南ヨーロッパ諸国が直面するユーロ危機に対する不安も、ドイツ人の間では最近は薄れてきているという。

別の世論調査ではもっと楽観的な結果が出ている。ハンブルクのBAT財団のアンケート調査では、72%のドイツ人、つまり約4人に3人が明るい見通しを持って新年を迎えるという。去年はその数値は59%に過ぎなかったから、かなりの上昇ぶりだ。この調査では東西の違いが明らかになっている。旧西ドイツでは楽観的な気持で新年を迎える人は74%に達しているが、旧東ドイツでは66%に過ぎない。しかし、この調査でも若い世代の楽観的な傾向が目立ち、14歳から34歳までのあいだでは、明るい見通しで新年を迎える人は81%にも上っている。2014年に景気が上向くと考えている人は41%だったが、去年は20%に過ぎなかった。もっとも、経済界や政治家に対して懐疑的な人が多く、2014年には経済界に対しては59%が、政界に対しては77%もの人が信頼を失う可能性があると考えている。

ドイツでは新年の国民向けの挨拶は連邦首相が、クリスマスの挨拶は連邦大統領が行うことになっている。 3ヵ月近い交渉を経て社会民主党との大連立政権を誕生させたメルケル首相の挨拶は、国民の協力に対する感謝の言葉が中心だった。メルケル首相は大晦日の夜に放送された挨拶のなかで2013年を振り返り、「我々一人一人の小さな努力の積み重ねが、我が国全体を決めるのです。国家は投資し、良い条件の枠組みを作りますが、国民の協力なしには政治も成果をあげることができません。今年の良いニュースの数々、これまで最も多くの人が職を得ることができたこと、我が国が世界の厳しい経済競争のなかで良い地位を占めていることなどは、すべて国民一人一人の努力があったからです」。こう述べたメルケル首相は、特に夏の東部と南部ドイツの洪水の後、各地で市民の自発的な救援活動、大掛かりなボランティア活動があったことを例にあげ、「大きな課題に比べ個々の努力は小さいものに見えるが、そうしたすべての努力が集まれば国の強さになるのです」と付け加えた。

メルケル首相は2014年がヨーロッパを戦場にした第1次世界大戦勃発100周年にあたること、5月25日にヨーロッパ議会選挙が行われること、また、ベルリンの壁崩壊から25周年になることを数え上げ、「ヨーロッパは少数の人の夢と多くの人の努力のおかげで、今や何百万人もの人が平和に暮らす場所となった」とヨーロッパ統合の意義を強調した。メルケル首相は新しい年の政治的な課題として、エネルギー転換の推進と赤字財政の是正をあげ、特に健全な財政を次の世代に引き渡すことを重要視していると語った。さらに、努力目標としてすべての子どもの教育の機会均等、社会の基礎となる家庭への支援強化などをあげたが、今年のメルケル首相の新年の挨拶は華やかな希望を語るといったものではなく、地に足の着いた、どちらかというと地味なものだった。高い理想を語るより現実的に一歩一歩前進することを好むと見られるメルケル首相らしい新年の挨拶だったと言えるかもしれない。

一方、クリスマスの日のガウク大統領の挨拶は、クリスマスの物語はそもそも幼子イエスが厩で誕生したことやマリアとヨセフが幼子を連れてエジプトに避難したことを指摘したのが印象に残った。ガウク大統領は、そうしたキリスト誕生のいきさつを述べながらドイツ国民に「我々は難民に対し本当にできる限りのことをしているだろうか?」と問いかけた。ガウク大統領は政治的な迫害や貧しさ、シリアの戦争などから逃れてドイツにやってくる難民たちの苦しみを思い、彼らにもっと援助の手を伸べるよう国民に訴えた。旧東ドイツの反体制の牧師だったガウク氏らしいクリスマスの挨拶だったが、実際の政治はいささか逆の方向に向かっているようだ。7年前にEUに加盟した東ヨーロッパのブルガリアとルーマニアの出稼ぎ労働者に対するEUの就労規制が今年1月1日で撤廃されたため、両国から貧しい“経済難民”が豊かな西の国々にどっと入ってきて、各国の社会保障制度を脅かすのではないかと憂慮されている。ドイツでもCSU(キリスト教社会同盟)党首が、両国からの出稼ぎ労働者を制限するべきだと主張して、連立パートナーの社会民主党や野党の批判を招いている。

 

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