チェルノブイリ事故を皮肉った人気風刺テレビ番組

やま / 2013年12月29日

hildebrandtチェルノブイリ原発事故の後、「放射能汚染」を初めて体験したドイツ住民の気持ちはどうだったのか、とよく聞かれます。事故後1ヶ月足らずに放映された、風刺番組の寸劇は、その当時のドイツ社会をうまく皮肉っています。原子力の危険も恐ろしさも具体的につかめず、それでも笑ってしまった“ドイツ落語”「被爆したお爺ちゃん」をご紹介したいと思います。

opa 2-1(南ドイツなまりの女性が舞台に登場する。慣れないコードレス電話機で番号を押す)

もしもし、(手元のメモをみながら)えーと、放、射、線、保、護、委、員、会、ですか? 良かった。(電話番号はあってたらしい)お聞きしたいことがあるのですが。

実は祖父が昨日91歳になりました。このあいだ、その祖父が車椅子に座ったまま庭にいたんですよ。ちなみに、祖父はほとんど毎日のように庭に出ます。これはもう習慣となっています。ところが今回は違うんです。ちょうどその日は雨が降り始めて、それでも、祖父を家の中に“入れる”ことを、うっかり忘れてしまったんですよ。というわけで、祖父は丸4時間雨ざらしになっていたんです。

もちろん普通だったら、たいしたことはありません。でも思ったのですが、ほら何っていう名前だったかしら。(メガネをかけてメモを見る)あのロシアの原子力発電所が原因で、ご存知でしょう、雨が降ったらなるべく外に出ないようにと盛んに言われていませんか。私たちの心配は、祖父が相当な量の「放射性物質」を浴びたんじゃないかということです。

先ほどお話したとおり、昨日祖父は91歳の誕生日を迎え、そうなると、いつ最期の日が来るかわかりませんでしょう。その場合、祖父を普通に埋葬できないのでは、もしかして祖父の遺体が墓地全体を放射能で汚染してしまうことになるのではとふと思ったのです。

opa 2-2そこでお伺いしたいのですが、この場合、祖父を「最終処分」しないといけないのでしょうか? もしくは「再処理」しなくていけないのでしょうか? (新しい流行語を使えこなせるのが嬉しげに) こういうことに関して私はまったく無知なんですが、このごろ、いろいろと考えてしまいます。つい最近「放射能で汚染された人々を普通には埋葬できない」と新聞に載っていたでしょう。こういう人たちは、実際には、えーっと、どういったかしら? あっそう、放射性廃棄物!

恐れ入りますが、どのように儀式を行ってよいのか教えていただけますか? お葬式って、だれにとっても大事でしょう。何か指導要綱みたいな決まりはありません?例えば、牧師が儀式の間、放射線防衛服を着用するべきとか?

そうですか、ないですか。(期待はずれで残念そう)
いまの祖父のただひとつの楽しみといえば、ちゃんとしたお葬式ぐらいです。こうなってしまったら、聖別された“最終処理”もいいのですが。せめて、キリスト教の儀式ではあってほしいのですが。

だめですか。できない理由とは?(どうやら半減期に問題があるよう)何ですって? 祖父の半減期なんか、私は興味はありません! 核を分裂したりする前に、このような肝心なことを初めからちゃんと考えておいてくれないとこまりますよ。めちゃくちゃですよ。そして、お爺ちゃんに尻拭いさせるの?! それでは、失礼しました。(女性は電話を切る)

お爺ちゃんはもう絶対に外には出さないわ! だって、これから100ミリレム以上浴びてしまったら、正式には埋葬してもらえなくなるでしょう。
(訳者注、キリスト教に従った埋葬をしてもらえないということは、復活を望めないという意味。つまり永遠に呪われる)

この番組の製作者はディーター・ヒルデブラント(Dieter Hildebrandt)。ドイツだけではなく、ドイツ語圏では有名な政治風刺家で今年11月8日に亡くなりました。

写真は下記の動画から、この寸劇は15分以降から見られます。
http://www.youtube.com/watch?v=UsI-gHdTGQw

レム (REM, rem) は、線量当量(生物体における放射性粒子吸収線量)の単位

 

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