デモ参加者たちはテロリストか - 「特定秘密保護法案」を報じたドイツのメディア

あきこ / 2013年12月8日

この2週間、時間が許す限りネットで日本の状況を追っていた。特定秘密保護法案がどうなるのか、もしこの法案が成立したらこれから日本はどうなるのかという不安に駆られてのことだった。ツィッター上では、まるで実況中継を見ているかと思うほど、国会と国会周辺の様子が伝わってきた。そして、同法案が衆議院で強行採決されたのを受けて、ドイツのメディアが反応した。

 

まず11月26日、ドイツの国際公共放送であるドイチェ・ヴェレが「日本は秘密情報機関の漏えいに立ち向かう」という見出しで特定秘密保護法案について報じた。強力な世論の批判にもかかわらず安倍首相が秘密漏えいに対する厳しい罰則を決めた法律を衆議院で強行採決したことを伝えた上で、「公務員、議員あるいはその他の人物による“ある特定の秘密”の外部への伝達は国家の安全を守るため10年の刑となり、情報を“不当に”入手したジャーナリストは5年間の刑を覚悟しなければならなくなる。ジャーナリスト、弁護士、人権擁護団体はどの情報が“特定秘密”であるかを国が独自の判断で確定できること、この法案が曖昧にされているために、福島の状況に関する情報にまで法案が拡大適用されることを恐れている」と伝えている。ドイチェ・ヴェレは、「安全保障のパートナーであるアメリカのような同盟国と重要な情報を交換することが日本には不可欠な条件だ」としたうえで、安倍首相はアメリカをモデルにした国家安全保障会議を設置する意向だと述べ、「日本が国際政治において大国として一役買う意図を持っている」ことを指摘している。日本の議会で法案審議が続いている間に、中国が尖閣諸島上空に防空識別圏を設定して日本と中国の軍事衝突の危機が拡大していることにも触れている。「安倍首相は世論の不安は参議院で払拭したいと述べた。政府は情報に対する市民の権利は十分に顧慮されるであろうことを保証した」と、報道を締めくくっている。

12月1日には、全国紙フランクフルター・アルゲマイネ紙が「市民・人権運動家とその他のテロリストから国を守る」と題するカーステン・ゲルミス記者の記事を掲載した。記事は高知新聞の「戦争の序章は軍靴が聞こえる前から始まる」という編集局長の論説の引用から始まり、尖閣諸島を巡る中国との紛争が安倍政権の今回の特定秘密保護法案への追い風となっている。「この戦争とは尖閣諸島をめぐる日中の紛争ではなく、安倍首相が今週参議院で強行採決しようとしている特定秘密保護法案を巡る戦いのことだ。中国との紛争は首相にとっては運よく起きた。これこそまさに、彼の国粋主義的目標の貫徹に力を貸すような紛争だ」と述べている。国家秘密を保護するというこの法案に、1930年代に日本を戦争に駆り立てた国粋主義への回帰を見る多くの批判があること、当時の政府が治安維持法を定めたことによって芽生えたばかりの日本の民主主義が終わりを告げたことも記されている。安倍首相は参議院の審議において不安は払しょくされるだろうと述べているものの、首相はすでに法案の変更はしないことを明らかにしていることも書いている。「石破の追い打ち」という小見出しで、自民党の石破幹事長が「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」とブログに書いたことについて、ゲルミス記者は「市民の権利や人権を守ろうとする人たちをテロリストと同一視し、民主主義の空洞化に追い打ちをかけた」としている。また、「安倍首相が同法案の成立を急ぐのは、アメリカのような国家安全保障会議を導入したことと国家秘密を守らなければならないことを根拠としている。同法案は、中国の軍事的拡張を背景としてアメリカとのより密接な軍事協力と軍備拡張に重点を置く安倍政権の新たな外交・安全保障戦略にとって不可欠な構成要素だ」とも述べている。

福島原発事故についての報道が規制されることはないかという点について、森雅子特定秘密保護法案担当大臣は法案に対する疑問や不安を払しょくできなかったと報じている。記事の最後の小見出しは「80%の日本人は法案の濫用を予測」となっている。「原子力発電所についてのどの情報が秘密にされるかは政府の裁量に任されている。石破幹事長がデモ参加者とテロリストをほぼ同じだとしたという点から、安倍政権が今後福島での事故さえも国家の安全という理由で秘密裡にしておきたいという疑念がわくのはもっともだ。日本の政治では不都合な状態を隠ぺいしてきた例には事欠かないため、人々は懐疑的だ。あるアンケートでは80%以上の日本人がスキャンダル、汚職、さまざまな問題を隠すために、この法律が政府によって濫用されるだろうと予測している」と結論づけている。

フランクフルター・アルゲマイネ紙が引用した高知新聞の「国民主権脅かす法」と題された論説の結論を書き添えておく。「厳罰によって言論を封じ込める秘密社会、監視社会、警察国家がどんな道をたどったか。歴史が教えている」。

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