感情のジェットコースター - その1:不信感と怒り

あきこ / 2013年11月10日

今年4月の帰国から半年後、再び帰国した。前回、日本は「不思議の国」と感じたが、この半年間で、この「不思議の国」がさらに不思議さを増したことを実感した。3週間の滞在中、日々の生活を通していろんな感情が湧いた。感情のジェットコースターに振り回されたような気がするが、今回の帰国で改めて感じたことを2回に分けて整理してみたい。

 

半年ぶりに帰国した日本、と言っても京都でいくつか目についた変化をまとめておこう。

1.日本にいる間は食品の安全についてよくわからないので、産地を確認しながら、できるだけ京都産のものを選ぶようにしている。自宅近くの店には、比較的京都産の野菜が多く店頭に出ていたのだが、今回、福島周辺の県の農産物が前回の帰国時に比べて多く店頭に出ていることに気づいた。いつも行く店以外でも、これらの県の農産物が非常に多かった。人々の買い方を少し観察したが、産地を確認しながら買っている人はあまりいないように見受けられた。

2.テレビのニュースあるいは報道番組を見たが、原発関連のニュースはほとんどなかった。とても不思議だったのは、台風が立て続けにやって来たときだった。台風の情報、あるいは台風が接近している地区からは、生々しい情報がリアルタイムで届けられた。雨や風が引き起こす自然災害の恐怖を掻き立てるような報道だ。台風の進路を見ると、どうしても福島地方が大雨になることは予想されたのに、ニュースでは福島のことについては全く触れないのだ。これだけ詳しく各地の情報を伝えながら、福島で起こりうることの予想はゼロ。まるで、台風は福島だけは避けて通るかのように思えた。

3.台風が過ぎ去ったあと、福島でどれだけの雨が降ったのか、平時ですら問題になっている汚染水が台風時に溢れださなかったのか気になった。朝日新聞では、「タンクを囲む堰内にたまった雨水があふれ出す前に、放射性物質の濃度が暫定基準値以下であることを確認した上で汚染水を排水した」と書かれていた。暫定値とは何なのか気になったので、さらに読み続けると、「10月15日に東電が原子力規制委員会に排水の基準を示したところ、内容の不備が指摘されたため再検討、15日深夜に暫定基準として規制委員会が了承した」と書かれている。台風が来る直前になって、排水の基準を決めるというのが事実なら、東電の危機管理が恐ろしく不備であるとしか言いようがない。また、水が溢れそうになったから急きょ「暫定値」を決めたというのも、何だか恐ろしい。

4.滞在中、ベルリンの友人たちが京都方面に来た。ちょうど台風26号が関西地方に接近しそうな時だった。朝からネットで台風がどのように進むのかを調べていたところ、ある情報に行きついた。それはスイスからの放射能拡散予報で、福島からの風向きと、3種類の地上からの高度(10m、500m、1500m)で拡散の予想を示すものだった。ちょうどその日は西日本方面に強い風が吹くという予想だった。しかも台風で雨が降りそうな気配なので、しっかりと傘を持って出かけた。友人たちが京都駅に着いたときには雨が降り出していたが、全員傘またはフード付きのコートを持っていたので、放射能が含まれているかもしれない雨に濡れることなく目的地に到着できてホッとした。

半年間で何かが大きく変わったわけではない。しかし、2年半前には福島から遠く離れた京都にいても感じられた危機感が、全くと言っていいほど感じられなかった。それどころか、ますます薄くなっていくことが感じられた。それに反比例するかのように、人々の消費熱がますます高まっているようだ。新しくできた大阪駅前の大型商業施設に足を踏み入れたが、息苦しくなった。「成長」「デフレ脱却」「強い経済」の背後に、人々を消費へ駆り立てる不安感を感じてしまった。しかし、この不安感の背後には、政府やメディアに対する不信感があるのではないだろうか。原発事故後、「省エネ」や「節電」と言いふらしていたのに、実は電力不足はなかった。首相は東京へのオリンピック招致に当たって世界に向かって「福島はアンダーコントロール」と言い切ったが、実際は台風が来れば汚染水対策は不完全なことが露呈してしまった。不信感が募って当然だ。

滞在中もドイツのニュースは見ていたが、台風についてのニュースは常に福島を中心に詳細に報じていた。東電がどのような対策を取っているのかを批判的に報じるニュースもあった。このニュースを読んで、どうなるかと思っていたその結果が上記の暫定基準値以下の汚染水の排水である。ドイツのニュースが報道していることをなぜ日本のメディアは報じないのだろうか。中国の大気汚染のニュース(これはドイツでも報じられていた)は詳しく知らせているのに、なぜ福島からの風がどのように吹いて、放射性物質がどの方向に飛ぶ可能性があるかを知らせないのだろうか。花粉情報や“お洗濯指数”は詳しく報道しても、放射性物質拡散予報はスイスからしか手に入れられない。なんという国になってしまったのだろう。怒りがふつふつと湧いてくる。

関連サイト:
スイスからの放射性物質拡散予報図(最近できた日本語版)

2 Responses to 感情のジェットコースター - その1:不信感と怒り

  1. Okada yofa says:

    ベルリンに滞在中の娘(貴月)のメールで、このサイトを知りました。
    お世話になり、有難うございます。
    フェースブックで、シェアさせて頂きました。

  2. あきこ says:

    ありがとうございます。