エネルギー生産で過疎化を止める農村フェルトハイム

やま / 2013年10月12日

収穫の秋です。果樹園のりんごの木に赤い実がたくさん熟しています。各地へ出荷される前、自家消費のために農家の人たちは収穫の一部をとっておきます。さわやかな秋の風が吹く中、フェルトハイム村の野原に建つ43基の風力タービンが回転し、多量の電力を発電しています。自家消費のためにその1%を村に配電してほしいと住民は電力会社に頼みました。答えは「ノー」。しかしフェルトハイムの市民は諦めようとはしませんでした。

ベルリンから南西へ約60kmに位置する人口145人の小さな農村フェルトハイム(Feldheim)では、10年前に自治体所有地にウィンドパークの設置を許可しました。2006年に完成して以来、風力タービンがMade in Feldheimの電気を送電網に送っています。大量の電力を生産しているのにもかかわらず村の住民は電力会社の高い電気を購入しなければなりませんでした。現在ある送電網では、村で生産した電気を直接配電できないというのが電力供給会社の言い分でした。

技術的な問題ならば技術的に解決できると村の人たちは考えました。「電力供給会社が送電網を占有しているのならば、我々も村専用の送電網を配備しようではないか」というアイデアが生まれました。

提案はすぐに実行に移され、地中に埋めてある電力会社の送電網の横に、村専用の送電網が配備されました。不経済では? とんでもない! 村のエネルギー供給所が送る電気は1kWhにつき17(約22円)セントで大手電力会社の電気料金よりも10(約13円)セント格安です。(ちなみにドイツの3人世帯の年間消費量が約4250kWhだとすると、毎年425ユーロの電気料金を節約できることになります)。料金の値上げを恐れることはありません。しかも100%クリーンな発電で、地球温暖化の問題にも、放射能汚染物の問題にもなりません。

2010年からフェルトハイムはクリーンエネルギー自給自足100%の村になりました。年間需要の何倍もの電力を生産する自治体は数多くありますが、この村では電力だけではなくエネルギー消費量を全て村で生産し、賄っています。ドイツの一般家庭では大半のエネルギーが暖房と給湯に使用されています。その割合は全体の85%を占めます。残りの15%が照明、電気器具、その他に使われる電力です。

ドイツの家庭部門の用途別エネルギー消費量(2006年度)
Energieverbrauch DE auf japanisch出典:ドイツ連邦政治教育センター、2009年度発表
ペタジュールはエネルギー単位:この数字に0.0258を乗じると原油換算100万キロリットルとなる。

電力供給のために送電網を配備した後、更に実行されたのは熱エネルギーの生産と供給でした。村の農協はバイオガス設備を設け、そこで生産された熱エネルギーは、配管を通じて40世帯の住居に供給されます。バイオガスの原料は牛・豚飼育場の排泄物、コーンサイレージ1、穀物の籾殻などの有機物です。更に寒波に備えてウッドチップを使った暖房設備が用意されました。そして今は、風力発電の設備利用率を高めるために蓄電池システムの設備が計画されています。

フェルトハイムは今後の地方自治体の見本になるでしょうか?「確かに、見本となるでしょう」と答えるのは有限会社エネルギークヴェレ2のヴェルナー・フローヴィッター氏です。同社はウィンドパークの開発、計画、建設の専門企業です。この企業の協力により自律性が高く消費者である市民が同時に生産者であるクリーンエネルギー供給が実現しました。

村のエネルギー転換に重要な配電網及び地域熱供給網の配備のために、地方自治体には手に負えない資金が必要でした。財政上の補助を州とEUから受けることができたのは、目指すべきエネルギー供給システムと考えられたからでしょう。

「フェルトハイムから学ぼう」と世界中から訪れる見学者の数は毎年3000人。ドイツ連邦環境省のアルトマイヤー大臣も既に見学に来たそうです。その一方、フローヴィッター氏自身も忙しくなり、オランダ、イギリスを始め、米国ミネソタ州などから依頼があり「クリーンエネルギー村フェルトハイム」を紹介するために世界中を飛び回っているそうです。

多くの地方自治体は今、過疎化という問題に悩んでいます。エネルギー転換のおかげでフェルトハイムの雇用者数は30人増え、新しい住民が移住してきました。将来に希望が生まれ、若者も無理に都市へ移る必要がありません。村にある古い宿屋の改造が始まり、今ここに再生可能なエネルギーについての案内所及び研修施設ができるそうです。

農業を営む村の人たちにとっては嬉しい仕事が増えました。それは農産物と同様、生活に必要なエネルギーの生産です。

1サイレージ (silage) とは家畜用飼料の一種で、飼料作物をサイロ(silo)などで発酵させたもの。一般には、青刈りした牧草を発酵させたもの(牧草サイレージ)をいう。それ以外の場合には、サイレージの前に穀物名を付けて呼ぶこともある(例: コーンサイレージ)。Wiki参照

2http://www.energiequelle.de/index.php/en/

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