選挙後に変わるだろうか?電力の固定価格買取り制度

こちゃん / 2013年9月22日

ドイツでは今、風力や太陽光、バイオマス発電の発展に大きく貢献してきた再生可能エネルギー優先法(略称 :再生可能エネルギー法、EEG)の改正が必然だとされている。市場経済の原理が機能しなくなり、不都合、不公平も起きているからだ。9月22日の総選挙後に誕生する新政府にとり同法の改正は大きな課題となっている。しかしこの法律は「選挙後にどの政党が政権に就いても大して変わらないだろう」とする声が聞こえてくる。あまりにも広い分野で多くの人々が既得権を持ってしまったからだ。

EEGは太陽光や風力などで発電した再生可能電力を20年間設置時の固定価格で買い取り、火力や原子力で発電したエネルギーより優先的に送電網に送り込むことを定めている。2000年の施行当初はそのころの高い設備投資費を克服する大きな手助けとなり、再生可能電力の普及に大きく貢献した。しかしここ数年来は、太陽光パネルの値下がりなどで投資経費が低下し、再生可能電力の一部には市場競争力も出て来ているのに、まだ固定の買取り価格が支払われている。固定買取り価格は最近いくらか下げられたが、それでもまだ20年間で投資額を充分に上回る大きな利益を生むことが見抜かれ、家を所有する一般家庭が屋根にパネルを設置するだけでなく、大農家や大地主、大手投資家や保険会社までが再生可能発電に投資するようになった。銀行は再生可能電力関連のファンドを立ち上げ、顧客に勧めている。広大なトウモロコシ畑、大規模ソーラーパークや風力パークがあちこちに誕生し、時には消化しきれないほどの自然エネルギーが生産されている。

これは競争力のある優秀な発電技術が市場競争に勝つ状態とは異なり、資金を提供した投資者だけが特権を得ることにつながっている。市場経済の原理が歪められているのだ。そして、余剰電力は安価で隣接国に売られることもあるし、発電量は多いが電力消費量が少ない時間帯に送電網が満杯になり、電力がそれ以上送電網に送り込まれないように操作する事態も度々発生している。

また、太陽光や風力による発電は天候に左右され、必要時に必要量の電力が発電出来ないことがあるので、バックアップ用の火力発電が欠かせない。ところが、環境への負担が最も少ないとされる高能力のガスタービン発電装置などは非常に高価で、連続的に稼働させて電力を供給しないと採算が合わないので、新しい装置を設置したり古い装置を更新したりする電力会社はない。また、再生可能電力促進のもともとの目的は、化石燃料への依存を減らすことと、二酸化炭素の削減に役立つはず だったのだが、米国でのシェールオイル、シェールガスブームで世界的に石炭価格が低下していることを受けて、質は悪いがドイツで大量に採掘される褐炭の価格も下がり、この褐炭を燃やす火力発電装置が自然エネルギー不足時のバックアップとして昨今多く利用されるようになっている。このためドイツ国内の二酸化炭素排出量が増えている。

投資家が手に入れる固定価格の大部分は、一般家庭や企業などが消費する全ての電力に割り当てて上乗せされる再生可能エネルギー促進のための賦課金で賄われる。この賦課金はライプツィヒにあるドイツの電力取引所で日ごとに変動する電力の取引価格とEEGで定められた割高の買い取り価格との差額から算出される。賦課金は再生可能電力の発電量が増えれば増えるほど 増加する。また、電力の取引価格が下がれば下がるほど買い取り価格との差が開き、増える。最近は再生可能電力が多量発電されるために、電力の取引価格は低下しており、その分、賦課金がかさんできている。そして今年度の賦課金総額は200億ユーロ(約2兆6000億円)にも達する見通しだという。これは、ドイツの電力消費者一人一人が再生可能電力のために合計200億ユーロもの大金を拠出していることを意味する。今年、1kWh当たりに上乗せされている賦課金は5.3セント(約8円)なのだが、来年はさらに上昇して6〜7セントになるだろうと懸念されている。

2012年末にドイツ国内に設置されていた太陽光発電装置は大小含めて128万だった。例えば、設置数・容量が最も多かったのはバイエルン州で、そこに住む投資家らは合計で12億ユーロ(約1500億円)の固定買取り価格を手に入れたとされる。これとは逆に、ドイツの各州の中で人口が最も多いが自然電力発電装置は少ないノルトライン・ウェストファーレン州の住民は合計で18億4000万ユーロ(約2392億円)の賦課金を支払った計算になるという。南ドイツに位置するバイエルン州では、より北のノルトライン・ウェストファーレン州より日照時間が長いということがあるかもしれないが、投資が盛んだった最大の理由は、バイエルン州の住民がより裕福であることのようだ。そして彼らは、EEGのおかげで更に裕福になっている。風力発電装置は(2011年末の数字で)2万3030基あったといい、トップはニーダーザクセン州の5257基だったそうだ。2010年末に存在していた容量2280MWのバイオガス装置の72%は農家の所有だったという数字もある。

利益を得ているのは投資家だけではない。例えば所有する土地に風力発電装置の設置を許可すると、地主は1基につき毎年2〜3千ユーロ(30万円前後)単位の土地賃貸料を入手することが出来る。強い風が吹くので風力発電に適しているドイツ北部の地方自治体などでは、風力発電のおかげで年間数百万ユーロ(数十億円)の営業税の収入が生まれているころもある。再生可能発電関係の仕事に従事していた工場労働者、技術者、研究者、職人などは2012年に38万人いたが、その内の70%はEEGのおかげで職を得ていたとされる。

さて、総選挙の後に、どの政党が上記のような利益の軽減を試みるだろうか。「なぜ自由民主党(FDP)が保険会社やファンドマネジャーを腹立たせるだろうか。どうしてキリスト教民主同盟(CDU)は増えた税収入に喜んでいる地方自治体、屋根のソーラーパネルで財政が潤った教会や農家を落胆させる必要があるだろうか。(バイエルン州だけを基盤とするCDUの姉妹党である)キリスト教社会同盟(CSU)はどうして、同州に現在37万5000もある太陽光発電装置が、その所有者に12億ユーロの収入をもたらすEEGの厳格な改正に賛成するだろうか」と問う新聞解説もある。過去13年間にEEGの影響で利益を得るようになった人たちがあまりにも増えたため、同法の改正は、ことのほか難しそうだ。

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