ゴミの山、アメリカ旅行 2

やま / 2013年9月15日
Recycle Mülltonne

観光客500万人がリサイクル

アリゾナ州北西部にあるコロラド峡谷、グランド・キャニオンは大自然の驚異であり、この全景は200万年前から変わっていません。1540年に峡谷探検に出たスペイン軍が水不足で死亡してしまったなどの事件があり、人類にとっては「無価値」とされ、文明から幸いにも見放されました。1908年に国立公園に指定され「この公園の誕生は環境保護運動の初期の成功例である」とWikiに記入されています。大自然を見渡すことができるように、いくつかのビュー・ポイントが公園に設けられました。そこで見たのはこのゴミ箱(写真参照)です。

「私たちのキャニオンです。ゴミはリサイクルしましょう」。ボール紙をはじめ、あらゆる紙類、飲料水の容器、アルミニウム、金属等々とリサイクルできるゴミが一つ一つ数えられていました。世界遺産であるグランド・キャニオンを訪れる観光客は年間約500万人。だれもが持参しているのはカメラだけではなく、使い捨てのペットボトルでした。

haus mit mülltonne

リサイクルの種類によってボックスも違う

減らないゴミの山はどの国でも問題となっています。私の見たアメリカではゴミを「無限な資源」として再使用する道を進んでいました。ゴミの量を減らすのではなく、集めて再使用する対策です。リサイクルがさかんな都市、サンフランシスコではリサイクル率が80%だと聞きました。一般に家庭のゴミは分けてボックスやビニール袋に詰め、市が収集しています。スーパーなど店ではゴミの回収を行っていません。今回の旅行中、よく見かけたのは「Cannern」と呼ばれるリサイクル収集者で、ニューヨーク市だけでその数は5000人にも上るそうです。丸半日かけて集めた空き缶、空き瓶、ペットボトルの売り上げは約40ドルに上ると、援助団体「ピクチャー・ザ・ホームレス(Picture the Homeless)」は述べていました。わずかな収入とはいえ、生き延びるためにニューヨーク市内を歩き回り、リサイクルできるゴミを集める「Cannern」についてのドキュメンタリー映画『Redemption』が製作され、今年度のアカデミー賞にノミネートされました。市内にあるゴミ箱から空き瓶を探し集め、売っている「Cannern」はベルリンでも年々増えている状態ですが、ハリウッドが関心を寄せたのはアメリカらしいと思いました。

Park in mittagszeit

昼食を楽しむニューヨークの市民

紙、ガラス、缶などのリサイクル率は高いそうですが、問題はプラスチックです。アメリカ旅行の毎日はプラスチックで始まりました。ホテルの備え付けの歯磨きコップは使い捨てのプラスチックで、ガラスのコップを毎回消毒するよりも、清潔なコップを楽に提供できるからだそうです。モーテルの朝食に用意された食器も発泡スチロールでした。軽いので安定の悪いコップが倒れ、飲み物がこぼれるという運悪い出来事を何度も目にしました。発泡スチロールでできた食器を手にして「皿洗いから億万長者になれる国」というのは私の思い違いだと感じました。昼時になると、市民が店で飲食物を買い、公園など外で食べている光景をよく見ました。紙の容器のなかに詰められた“お弁当”もありましたが、多くはプラスチックや発泡スチロールが使われていました。食べ残こしとともに使用済みの容器はゴミ箱へ。いずれは誰かがゴミを片付ると思い、身も心も軽く仕事に戻ります。そして夜、レストランで出される一人前の量は多すぎて食べ切れません。残したものは客に持って帰ってもらうのは普通で、別に頼まなくても出てくるのは、発砲スチロール製の入れ物とビニールの手提げ袋でした。

合成樹脂の(ビニール、プラスチック、発泡スチロール等々)のリサイクルは分別が面倒で費用がかかると言われています。(ちなみにドイツの場合、合成樹脂のリサイクル率は約50%強ですが、燃やして熱エネルギーとして「再利用する」ことも含めています)。ですから、環境にやさしい代替品を求める傾向がアメリカでも見られました。

MoMA klein

原料の80%は石灰

アメリカ西海岸のシンクタンクであるスタンフォード大学、同大学に属するSLAC研究所の食堂ではコンポストとなるバイオ・プラスチックの使用はごく当たり前のようです。ガラスのように透明なコップには、緑の葉とともに「made from corn     100% compostable」とカッコよく書いてありました。
市民と観光客でにぎわうサンフランシスコ市内のショッピングモール、モール内にある店で米の籾殻で生産された受け皿と小鉢がおいてありました。着色に天然塗料(草木染)を使っているので色がとても落ち着いています。市の周辺ではカリフォルニア米が大量に収穫できるので、地産地消の良い例だと思いました。
バイオ・プラスチックはドイツでも知られていますが、今度の旅で知った環境に優しい新製品はニューヨークにあるMoMAの売店にあった「ストーン紙(中国語で石科紙)」でした。1819年にすでにオーストリア帝国出身のアロイス・ゼネフェルダーが最初のシュタイン・パピアーを発明したそうですが、今日の「石科紙」は台湾の「龍盟科技(Lung Meng Technology Co.,Ltd.)」より1990年代に開発されました。原料は80%が石から抽出した石灰石です。残りの20%は膠着剤として、サトウキビなどの屑を原料としたバイオポリウレタンが用いられています。ビロードのような光沢を持つこの紙は丈夫で、濡れても平気です。従来の紙の生産には大量な水(紙製品1tにつき6万リットル以上)が必要ですが、石の紙生産には水はいりません。原料となる石が元々白い石灰なので環境を汚染する漂白剤も無用です。

「消費優先のアメリカでも、ゴミ問題を解決する方法はゴミの量を減らすしかない」という自分なりの結論を持ってベルリンに戻りました。それから数日後、私の関心を引いたのは『ニューヨークとゴミ ― 何百年も続き、終わりがないドラマ』という記事*でした。

NY Müll klein

南ドイツ新聞、ニューヨーク・レポ

ニューヨーク市の清掃局は世界一規模の大きいゴミ管理事務局です。ゴミの処理、清掃、リサイクルなどの一般業務に加えて、ゴミを社会問題として究明することも事業と考え、人類学者を特別任命しました。依頼を受けたのは52歳の人類学教授、ロビン・ネーグル(Robin Nagle)氏です。彼女はニューヨーク大学の教授ですが、2004~2005年までの数ヶ月間、清掃車に乗り、自らゴミ収集を行ったそうです。そのような体験がゴミ対策に役に立つことを市は望んだのでしょう。「ゴミは消えない。だれかがいつかゴミを片付けないといけない。一般市民はなぜその認識が足りないのか」とネーグル教授は問い、「ゴミ博物館」を建てることを提案しました。ニューヨーク市に勤める7200人の清掃作業員の仕事をもっと高く評価してもらいたいと考えたからです。「清掃作業員の仕事は警察官の仕事よりも危険だ」とネーグル教授は語ります。「ゴミは不愉快だ。臭くて、汚いし、健康に害がある。だから一般市民はこの問題を伏せて忘れようとする。今までニューヨーク市では、ゴミ、騒音など全て不愉快な問題は黒人が多く住む貧しい地区に持って行った。ところが今回の例は違う」。世界一の高級住宅街のひとつと言われるマンハッタン、イーストサイドにゴミ中間置き場というべき波止場、マリーン・トランスファー・ステーションを作り、船を使ってニュージャージーにある清掃工場への輸送が計画されています。船で運び出される前に、ニューヨーク市全体のゴミがここに一時収集されることになります。清掃車の縦列(ちなみに2023台の清掃車が始終市内を走り回っているようです)、騒音、汚れ、匂い、ほこり等を恐れて地区の住民は大反対です。今年の秋に行われるニューヨーク市市長選挙を前に「ゴミをめぐる政治的な戦い」が始まりました。

この記事を読みゴミ対策に関しても「アメリカを見ずには世界は見えない」と感じました。

 

*南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)2013年8月24/25日、著者ニコラウス・ピーパー(Nikolaus Piper)

『Redemption』jon alpert and matthew o’neill
http://www.youtube.com/watch?v=Ley_ZshNRlc

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