地熱利用で快適な住まいを訪問

こちゃん / 2013年6月2日

地熱で暖房している一軒家に住んでいる方がいるというので、みどりの1kWhのメンバーと訪ねて家を見せて頂いた。外見も中もドイツの普通の家と変わらない快適な住まいだった。

 

家主はチェロ演奏者のベアーテ・ツィリアスさん。オーケストラの演奏旅行で何度か日本に行ったこともあると言い、日本が大好きだという親日家だ。2006年にベルリン郊外の緑に囲まれた住宅地に地所を買い新築したが、その際、出来るだけ環境に優しい家を建てようと考えたという。「30年来、環境問題と取り組む NGO のグリーンピースのメンバーでしたから、そう考えるのは当然だったんです」と語る。年々目に見えて値上がりする暖房用の灯油やガスの燃費もなんとか節約できないかと思ったという。

そこでまず木造で、従来の住宅より消費エネルギーが少ない「低エネルギーハウス」を建てることにした。木造を選んだのは石造りの家より資材などの環境に与える影響が少ないと思ったからだ。「低エネルギーハウス」というのは、エネルギー節減条例の規準に従い暖房用の熱消費量が低い家屋を指す。木造といっても外壁にモルタルが塗ってあるので、外見は石造りの家と同じように見える。

ドイツの家屋には一般に、セントラルヒーティングのシステムが広まっており、建物内の温度がどの部屋も均一で、居間だけが暖かく廊下やトイレが寒いということはない。また冬の寒い日に、例えば外気がマイナス10度であっても、室内の温度は22〜23度ぐらいに保たれている。このため、オフィスや住宅などの建物の暖房に消費されるエネルギーは膨大で、給湯用のエネルギーを加算すると、国内で消費される全エネルギーの約3分の1を占めると言われている。従って、暖房費の節約は官民にとって取り組む甲斐のある課題となっている。(因みに、日本では国内における工場、オフィス、運輸、家庭などで消費される全エネルギーに占める家庭で使用されるエネルギーの割合は15%だという話を聞いたことがある。)「低エネルギーハウス」は、エネルギーの損失を少なくするために、屋根、天井、外壁、床などの機密性が従来より高くなっており、窓は2重ガラスだ。

Waermepumpe暖房装置としては地熱を利用するヒートポンプを導入した。家の中でオイルやガスを燃焼して熱を発生させるより、地中にある熱をポンプで集め、それを圧縮して温度を高め、家の中へ運ぶことが出来れば、より少ないエネルギーで大きな効果が期待出来るからだ。日本では一般に、外気を熱源とし、冷暖房両機能を持ち合わせるヒートポンプ・エアコンが使用されているが、地中熱は外気に比べて望む室内の温度との差が小さいため(冬場、地中熱は外気より暖かく、夏場は外気より冷たい)、必要な動力が少なくて済む。動力とはこの際、ポンプや圧縮器を動かす電力のことを指し、条件によっては導入する電力の3倍から4倍のエネルギーが獲得出来るという。つまり地熱利用のヒートポンプは効率が高いのだ。

しかし地熱を利用するための工事はとても大掛かりだ。日本で使われているエアコンの場合は通常、家の外に空気を取り込むためのファンの付いた装置が置かれるだけだが、ツィリアスさんのお宅では庭の真ん中に60 mもあるゾンデ(ボーリング装置)が5mの間隔をおいて2本埋められている。工事の際には埋設のための大きな機械が庭を埋め尽くし、ごった返していた。しかしゾンデの埋められている個所は現在普通の芝生になっていて、その下深くに何かが埋まっているとは見えない。ゾンデの中には塩水が入っており、それが この辺りでは一年中常に約13度ある地中の熱を地上まで運んでいる。

工事費は決して安くない。ゾンデを埋める作業、ヒートポンプ、床暖房敷設などを含めて2万6000ユーロ(約330万円)だったという。(この中に給湯装置は含まれていない。)しかし従来の暖房で必要になるオイルタンクあるいは都市ガスへの接続、燃焼炉、ボイラー、煙突などは要らない。ツィリアスさんのお宅にも通常のドイツの家と同じように地下室がある。普通の家ではそこにオイルタンクや燃焼炉、ボイラーを設置するのだが、ツィリアスさんのお宅にあるのはヒートポンプ一台だけだ。

Fussbodenheizung 008地中で暖められた塩水はこのヒートポンプまで運ばれてくる。ここで塩水の運んだ熱が今度は床暖房の管の中を流れる水に移され、これが温水となって家の中を循環し、部屋を暖める。床暖房なので、暖房用のラジエーターなどはツィリアスさんのお宅では見当たらない。ゆっくりと循環するお湯で家を暖めるため、部屋を急速に暖めたりすることは出来ないが、常時一定の温度を保つことが可能で、「居心地がとても良い」とツィリアスさんは話す。

 

地熱を利用したこの暖房システムは、運転費がオイルやガス使用のシステムとは雲泥の差で、160平米の家を暖めるためにかかるのは、なんと年間僅か300ユーロ(約3万9000円)の電気料金だけだという。他のシステムならば、オイルやガスの購入費だけでも10倍近くは掛かるはずだ。しかもこのシステムには地元の電力供給会社ファッテンファルの特別料金が適応されている。家庭で通常消費される電気の料金は現在1kWh当たり約26ユーロセント(約33.8円)なのだが、この地熱暖房用の電気料金は割安で1kWh当たり17〜18ユーロセント(約23円)で提供されているのだ。そこで、ツィリアスさんのお宅には暖房用のメーターと、他の電灯や台所の電気コンロ、コンピューターなどに使う電気のメーターの2個が設置されている。

この暖房システムはメンテナンスもごく簡単で、費用がほとんどかからないという。通常のシステムだと、家の持ち主には毎年一度 燃焼炉の点検と 煙突掃除なども義務づけられているが、それがないからだ。

そんなわけで、ツィリアスさんは地熱を利用したこの暖房システムに大満足だ。「庭に大きな穴を掘ってゾンデを挿入するなんて恐ろしい、などと言っていた家族や友人もいましたが、今は皆がうらやましがっています」とも語る。「このヒートポンプを使用すると、夏に冷房も出来るのですが、ベルリンの夏は冷房を使うほど暑くならないので、まだ使用したことはありません」とも話す。

これは地熱暖房とは直接関係ないが、ツィリアスさんは2010年に屋上に4.5平米のソーラーパネルも設置した。再生可能電力を作って環境保護に貢献しようと思ったからだという。「本来なら、この電力はヒートポンプなどの動力として使った方が良いのですが、この電力は再生可能エネルギー優先法(Gesetz für den Vorrang Erneuerbarer Energie、略称EEG、Erneuerbare-Energie-Gesetz)のおかげで、20年間1kWh当たり49ユーロセント(約63.7円)で買い上げてもらえるので、その誘惑には勝てませんでした」とツィリアスさんはちらっと頬を赤く染めた。この電力を自宅で消費せず、売却しているのだ。環境保護と経済性のどちらを選ぶか。現在ドイツではEEGの賦課金がかさむこともあって電気代の値上がりが問題視されており、同法の改正が望まれている。ツィリアスさんは高い買取り価格が約束されなかたとしても、ソーラーパネルを設置したのではないだろうか、と私は思った。

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