緑の影の薄いロンドン

やま / 2013年5月5日

marathon晴天の日曜日、毎年恒例のロンドンマラソンが開催されました。市内を走る選手を応援する歓声で街は一層賑やかでした。赤いバス、黒いタクシー、ロンドン市を占める色は赤と黒です。「緑の話題」は稀で、今回、この大都市を訪れて緑の影は非常に薄いと感じました。

「持参の布袋をレジで出すと、ドイツ人だということ丸出しなの」とロンドンに半年ほど住む娘が声をひそめて言いました。タワーブリッジ付近にあるスーパーマーケットで私たちは買い物をしました。ここは「王室御用達」「オーガニック」などと食品の品質の良さを売りにしているスーパーマーケット・チェーンですが、ビニールの買い物袋はただです。消費者は店に置いてあるビニール袋に品物を何の疑念も抱かずに詰めていました。

bus 1特にスーパーマーケットで使われている薄いビニール袋は自然環境を損なうという理由で、中国では2008年2月から使用禁止されています。ドイツではスーパーマーケットなどの食品売り場ではビニール袋はわずかですが有料です。アイルランドでは12年前にプラスチック税が取り入れられ、ビニール袋に税金が22ユーロ・セント(約28円)かかるようになってから使用量が90パーセント以上も減ったそうです。

ロンドン市民はこのような「緑のテーマ」までに関心がいかないようです。ロンドンの物価は非常に高く、生活に十分な収入を得ることだけで手一杯になり、他に時間が取れないのが現状です。いい学校、そして有名大学を卒業しないと収入の高い仕事に就けません。ロンドンに住むある医者夫婦は、小学校入学のため子供を塾に送っています。目指す名門学校はカトリック系なので、子供に洗礼を受けさせ、カトリック教徒にしたそうです。月謝は彼らの年金保険で賄うなど、教育費負担の重さはドイツでは考えられません。道で遊ぶ子供が見られないのも、勉強で時間がないからでしょう。

altbauかつて「日本人の住居はウサギ小屋」とEC(ヨーロッパ共同体)非公式報告書にあったそうですが、イギリスの平均的な住居の広さは日本とほとんど変わりません。運良く見つかった、4畳半近くある部屋に住む娘いわく、部屋が小さいと電気ストーブですぐに暖まるので助かるそうです。窓枠には隙間が多く、シックハウスになる心配はありません。北海油田から石油を採掘できるかぎり、住宅の省エネ対策については考える必要はないようです。住宅ローン返済の負担が重いのか市民は費用のかかる断熱・省エネ対策を避けているようです。設備改善、そして建物全体が改修されると物件の価値が上がり、かえって家屋税も上がるので、結局はコスト削減にはならないと聞きました。

アラブ諸国、ロシア、最近では中国からロンドン不動産市場へ投資をする人が多く、不動産価格は日本のバブルを思わせるほど上昇しています。彼らの多くは一時的滞在者であり、ロンドン市民の政治や社会的な問題に対してはいささかも興味がないのは当たり前かもしれません。家賃も大幅に上がっていますが、ロンドン市民の間では抗議運動が起きていません。ドイツでは去年の末、多くの都市でデモが行われ、彼らの要求は「市民に支払える家賃」でした。ちなみに、ドイツでは家賃が高い都市とされているミュンヘンでもロンドンの半分以下です。

エネルギー問題を取り上げてみるとサッチャー元首相のスローガン、TINA主義(There ist no alternativ)が思い浮かびます。反原発運動についての取材にドイツを訪れたあるBBC記者によると、多くのイギリス人は原子力及び現在稼動している9機の原発を支持していて、ドイツの脱原発については「コストが上昇して、将来、経済的な重荷になるだろう」という考え方が一般的だそうです。調べてみると1)イギリスの電力需要量の70%弱はガスと石炭による火力発電で、原子力発電は20%以上を占めています。

1957年にイギリス北西部にあるセラフィールドで世界初の原子炉重大事故が起こり、1973年同施設で大規模漏洩事故が発生しました。1950年から1994年に放射性廃棄物海洋投棄が禁止されるまで、世界各国で沈められた放射性物質の量は10万トンに上るそうです。その80%はイギリス産であるとWikiに書かれていました。ドーバー海峡に沈む放射物の問題をメディアで大きく取り上げたのは、フランスとドイツでした。イギリス人の原子力に対する意見は今も揺るぎないようです。

 

1)  参照:UK Department of Energie & Climate, 2011

 

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