歴史的な妥協? 放射性廃棄物最終処分施設に関する超党派の合意

永井 潤子 / 2013年4月14日

「最終処分施設に関する歴史的な妥協」、「最終処分施設探し、新規開始」といった見出しの記事が4月10日、ドイツの多くの新聞の一面トップに掲載された。前日、ドイツ連邦政府や州政府代表など、超党派の政治家たちが集まった会議で、長年先延ばしにされてきた高レベル放射性廃棄物の最終処分施設に関する合意が生まれたためだ。

多くの国が原子力による電力を使っているが、何万年、何十万年にもわたって危険な放射線を出し続ける高レベル放射性廃棄物の最終処分施設を持っている国は、世界広しといえども、ひとつもない。日本にも、もちろんない。わずかにフィンランド、フランス、スウェーデンなどが最終処分施設建設の具体的な場所を決定したという段階である。スウェーデンだけが工事を開始しており、2022年に完成予定だという。フィンランドは2015年に建設開始、フランスは2017年に建設開始予定だとか。福島第一原発事故の直後、2022年までの段階的な脱原発を決定したドイツにとっても、高レベル放射性廃棄物の最終処分施設をつくる問題は、残されたきわめて重要な課題である。

ドイツでは1977年2月、西ドイツ・ニーダーザクセン州のアルブレヒト政権(保守のキリスト教民主同盟)が、当時の東ドイツとの境界線に近い同州のゴアレーベンの岩塩層を将来の放射性廃棄物最終処分所とすると決定した。当時の西ドイツは原発推進ムードで、廃棄物処理の問題も近い将来、科学の進歩によって解決できるのではないかといった楽観的な見方が強かったという。旧東ドイツとの境界線に近い地域に危険な最終処分施設をつくろうとしたことに当初から批判があったが、その後、ゴアレーベンの岩塩層が地質学的に最終処分所に適していないという見方も生まれ、ゴアレーベンは長年反原発派の闘争の目標となってきた。特にイギリスのセラフィールドとフランスのラ・アーグの再処理施設から高レベル核廃棄物(ガラス固化体)がキャスクでゴアレーベンの中間貯蔵所に運ばれてくるときには、反原発派の激しい闘争が繰り返され、警備の警官隊との間の衝突が、さながら市街戦のような様相を呈することがまれではなかった。

こうした状況を終わらせ、ゴアレーベンを候補地として残そうとする保守派や電力会社と反対派の無駄な対立を解消させ、全国的な視野で最終処分施設に最も適した場所を新たに探そうという政治家たちの努力が実って、今回の超党派の合意が生まれたのだった。「歴史的な妥協」などとマスメディアが書くのは、原発導入から50年あまり、ゴアレーベンの最終処分所決定から36年ぶりのことだったためである。こうした合意が可能になったのは、福島第1原発の事故後、バーデン・ヴュルテンベルク州にドイツの歴史上、はじめて緑の党の州首相が誕生し、その州首相が放射性廃棄物の最終貯蔵施設問題で新たな提案をし、同州の粘土層もひとつの候補地と考えられると語ったことがきっかけになっている。また最近ゴアレーベンのあるニーダーザクセン州に社会民主党と緑の党の連立政権が樹立されたたことも、大きく影響している。

さて、4月9日の火曜日、ニーダーザクセン州のベルリン代表部にアルトマイヤー連邦環境相(キリスト教民主同盟)、ニーダーザクセン州のヴァイル首相(社会民主党)、バーデン・ヴュルテンベルク州のクレッチュマン首相(緑の党)、それに連邦議会の4党派の代表、キリスト教民主・社会両同盟や自由民主党の環境問題担当の政治家、社会民主党の代表や緑の党のトゥリティン議員団団長(元連邦環境相)などが集まり、放射性廃棄物の最終処分施設をめぐる問題について5時間半にわたって協議した。協議の後、「新たに最終処分施設に最適な場所を全国的な規模で探す工程表について合意が生まれた」と発表したアルトマイヤー連邦環境相は「これで原子力時代最後の大きな争点が、超党派の合意で解決できることが明らかになった」と誇らしげに語っていた。同連邦環境相は「新しい最終処分場探しは、市民の参加のもとオープンに進められなければならない」とも強調した。

合意の具体的な内容は次のようなものである。

1)遅くとも2031年までに放射性廃棄物最終処分施設建設の立地場所を決定する。

2)そのために24人からなる諮問委員会を結成する。委員の半数の12人は連邦議会代表と連邦参議院代表が6人ずつを占め、後の12人は、学者4人と経営者、労働組合、教会などの代表の8人で構成される。この委員会は2015年までに最終貯処分施設の設置基準を設定する。

3)新たに設けられる監督官庁と連邦放射線防護庁(BfS)はこの基準に基づき数カ所の候補地を探し、予備調査を開始する。

4)連邦議会は2023年末までに数カ所の候補地を2カ所にしぼり、地下採掘調査を行う。

5)以上のような内容を含む放射性廃棄物の最終処分施設を選定するための新たな法律は、協議に参加した4党により今月末か5月初めに連邦議会に提出され、7月5日までに、つまり夏休み前に連邦議会と連邦参議院で審議、決議する。

新しく設けられる諮問委員会の委員長には、脱原発/エネルギー転換に関する政府の諮問倫理委員会の共同委員長を務めたテップファー元連邦環境相(元国連環境計画事務局長)などの名前が挙がっている。ドイツでは今年秋に連邦議会の選挙があるため、選挙の後の新たな連邦政府の誕生を待っていると、また振り出しに戻る恐れがある。そうした事態を避けるため早期の合意を目指した政治家たちの努力は、賞賛に値すると私は思う。

前述のような内容の工程表で超党派の合意が生まれたことを、最大野党、社会民主党のガブリエル党首(元ニーダーザクセン州首相、元連邦環境相)は「これは放射性廃棄物の最終処分施設建設という重要なテーマを超えて、我々の民主主義、政治文化の成熟を見事にあらわしている」と高く評価した。しかし、5時間半にわたる協議でも合意にいたらなかったこともある。例えば、キャスク26基分の高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)が、これから英仏の再処理施設からドイツに戻ってくる予定だが、それをどこに保管するかについては合意にいたらなかった。しかし、法案提示までに結論を出すこと、ゴアレーベンには運ばないこと、外国に保管しないことで、協議参加者の意見は一致している。

こうした与野党、連邦と州政府代表の合意に対し、協議に参加しなかった連邦議会の野党、左翼党や反核団体は反対している。反原発団体の反対は、主としてゴアレーベンが最終処分施設の候補地から除外されなかったことに向けられている。ニーダーザクセン州政府も当初は除外を強く求めていたが、それを強調すると保守派の同意が得られないことなどから譲歩したといういきさつがある。そのためゴアレーベンも将来は他の新たな候補地と同じ扱いを受けることになる。また、設置基準設定から、候補地を2カ所に絞り込むまでの期間がわずか8年と短いことも批判されている。

今後は岩塩層があるドイツ北部、粘土層のあるドイツ南西部(バーデン・ヴュルテンベルク州やバイエルン州)、花崗岩のあるドイツ東部(ザクセン州やザクセン・アンハルト州)などから候補地が探されるが、その調査に20億ユーロ(約2600億円)以上かかると見られる費用を誰が負担するかが、早くも新たな争点になっている。候補地探しが進み、具体的になるにつれ現地住民の反対運動が起こってくることも予測される。また、高濃度の放射性廃棄物を何万年、何十万年にもわたって安全に保管する方法がそもそもあるのかといった問題もあり、前途多難なことが予想される。

「試練はこれからやってくる」というタイトルの4月10日の南ドイツ新聞の解説は、「最終処分施設の場所探しが始まることになったが、その意味は、それ以上でもそれ以下でもない」と書いた後、「それでも、とにかくスタートが切られた」という言葉で結んでいる。

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