畑から生まれて畑へ戻るみどりのプラスチック

やま / 2012年7月8日

デュッセルドルフ、ケルン、ボンのあるノルトライン・ヴェストファーレン州西部の小さな町でゴミにも害にもならないみどりのプラスチックを製造する農家があります。ドキュメンタリー「みどりの革命」1)に登場する一人は、この農家の持ち主であるフーベルト・ロイク(Hubert Loick)さんです。彼のアイデアは使用後、エネルギーとして利用でき、肥料となって自然に戻るみどりのプラスチックを作ることです。2005年にケルンで催された世界青年会議に50万人用のプラスチック食器を用意したのはロイクさんの経営するロイク再生可能資源株式会社でした。未来を背負う青年の集まりに環境問題となるプラスチックの山は相応しくはなかったでしょう。ロイクさんの使い捨て食器は使用後、食べ残りといっしょにコンポストへ、なぜならば原料はトウモロコシ。

偶然に生まれたアイデア

1990年代のはじめのことです。注文した電気器具の部品が届き、一緒に箱につめられた発砲スチロールのパッキング材がこぼれて、つまんでいたバンバ(スナック菓子)の横に落ちました。「間違えるほど形が似ていました」と語るロイクさん。このピーナッツバター味のスナックの原料はトウモロコシです。「トウモロコシだったら十分に自分の畑に育っている」環境にやさしいパッキング材を作るアイデアはこの時生まれました。農場の一角に建つ倉庫で技士である友人と実験研究が始まりました。トウモロコシの粉に水を混ぜ高気圧でパッキング材を吹き出す機械第一号はイギリス製です。辞書を持ち、慣れない英語で機械の構造を説明し、交渉するために田舎から大都市ロンドンを訪れたそうです。その当時彼にとっては莫大な150万マルクの投資が実を結び、今ではドイツ郵便、DHL、コカコーラやダイムラー・クライスラー等が社のパッキング材の重要顧客として挙げられます。

最高の思いつきはトラクターに乗り、土を耕すときに

ロイク社は現在、食器、ラップ、パッキング材や子供のおもちゃ等、様々な製品を手がけています。原料のトウモロコシと水の割合、製法と過程により質の違ったみどりのプラスチックが出来ます。生産を始めた当時、出来上がったコップに水を入れると、数分後、水滴がしみ出てきました。釜で焼いた試作品の皿の上に焼きたての熱いソーセージを載せたら、置いた部分が溶けてしまったり、試作品フォークをそのソーセージにさしたらすぐに曲がったり、失敗が何度もあったようです。完全な製品ができるまで、開発に5年間かかり、1999年についに完璧な製品を市場に出すことが出来ました。「失望、絶望寸前の時が何度もありました。しかし私は農家の者です。土を耕しにトラクターに乗ります。すると最高のアイデアが浮かびます」。彼の“最高のアイデア”のひとつは、ゴミとなったペットボトル等のキャップとトウモロコシをミックスして出来た、丈夫な芝生保護網マットです。駐車場に敷けばマットの網目から芝生や草がはえるので生活環境の緑化にもなります。「この芝生でゴルフをするならばロイク社のティーを使っていただきたい。プラスチック製とは違い芝生の中に置き去りにしても40~50日で土にもどるので環境のためにもなります」。

エコロジカルな循環方法

ロイクさんの家は代々農家です。彼にとって持続可能性は新しいビジョンではありません。「自然との共生と自然循環機能を考えなければ、代々450年も農業を続けることはできなかったでしょう。明日収穫するためには、今日、土を耕し、大事に手入れをし、慎重に種をまかなければいけない」。進歩、成長と言う理由で自然を収奪しないよう、そしていつまでも自然資源を維持できるように、彼はエコロジカルな循環方法を実践しています。生産原料となる大半のトウモロコシは自分の畑で栽培します。トウモロコシの粉から、みどりのプラスチック製品が製造されます。製品が使用されて、処理されます。処理場はフラウンホーファー研究所とともに開発されたバイオマス化施設です。トウモロコシの茎や葉とともに使用済みのみどりのプラスチックはここへ送られます。この施設で製造された電力と熱は工場やオフィスで利用されます。残った植物性廃棄物を肥料として畑へまき、良質な土を作ります。その畑でトウモロコシが再び育ちます。トウモロコシを収穫して、みどりのプラスチックが製造されます。

石油の代替として、食物であるトウモロコシがバイオ燃料としても注目を集めています。しかしトウモロコシの単作農業が増えたり食料価格が世界的に高騰したりして大きな問題になっています。ロイクさんはトウモロコシ製品でパッキング市場を支配しようとは思っていません。「目を開いてほしい。あらゆる飲み物を一つ一つ小さなプラスチック容器に入れて売らなければいけないのでしょうか。買い物にビニール袋がいつも必要なのでしょうか。今こそ、それについて私たちは考え直すべきです」というのが保守主義者を自称するロイクさんの意見です。

ロイク株式会社のオフィシャルサイト、Hubert Loick , CEO Loick AG
http://cms.loick-ag.de

写真参照、Andreas Rodler, flickr

1)カトリン・ラッチュ監督(Kathrin Latsch)、Die grüne Revolution

 

 

3 Responses to 畑から生まれて畑へ戻るみどりのプラスチック

  1. みづき says:

    そう言えば、長野オリンピックだったかで、
    会場で使う紙皿をオーガニックの皿
    (土に捨てれば、そのまま土に還る素材)を
    使っていたと聞いたことがあるような気がします。
    きっと似た技術なんでしょうね。

    • やま says:

      コメントありがとうございます。トウモロコシや草を原料としてプラスチックを作る技術は最近ブームだそうです。ハノーバーでは「ビオプラスチック見本市」なども開催されています。特に強調したかったのは、ロイク社は原料であるトウモロコシを農家として責任を持ち作っていることです。地産地消することによって原料運搬のためのエネルギーを減らすことができます。しかも穀物相場で値段が左右されるということがありません。工業国が開発途上国でトウモロコシ単作農業を営むことによって起きる、水不足、農耕地の不毛化、化学肥料の使用過多、現地の食物不足などの問題を考えると地産地消はたいへん重要なことだと思います。捨てて土に還す前に他の生ゴミと一緒にバイオマス化施設で得られたエネルギーを商品生産に利用しているのもこの社の特徴です。過程が絶えず循環しているので環境にやさしい、ですからこの会社を皆さまにご紹介したいと思いました。

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