高圧送電網の新設・近代化費用は320億ユーロ

ツェルディック 野尻紘子 / 2012年6月24日

ドイツの4大送電網運営会社が先ほど提示した送電網開発計画案によると、同国が進めているエネルギー転換のために新設されなくてはならない高圧送電網は3800kmで、既存だが近代化が必要となる高圧送電網は4000km、そのために掛かる費用は200億ユーロ(2兆円)になる。北海やバルト海に計画されている洋上風力発電パークを、2022年までに接続するための送電網には、さらに120億ユーロ(1兆2000億円)が必要となり、総額は320億ユーロ(3兆2000億円)に達する。膨大な金額ではあるが、年々再生可能エネルギーの支援に支払われる金額が約140億ユーロ(1兆4000億円)であることを考えると、それほどかけ離れた額でないことが分かる。

提示された送電網開発計画案は、年末までに連邦議会で決定される予定の連邦需要計画のたたき台になるもので、予定路線の出発点と到着点は示されているが、正確なルートはまだ決まっていない。北ドイツで風力により多く発電される再生可能エネルギーを電力使用量の多い南ドイツに送電するのが主な用途で、北海沿岸から南ドイツに向けて走る幹線が3本と、東ドイツから南ドイツに向かう幹線が1本ある。幹線の通る地域の住民や土地所有者との紛争、摩擦を避けるために、新設の半分近くは既存の送電網に沿って敷設するように考えられているという。また、新設の3800kmのうちの約1700kmは、通常の三相交流送電網(Drehstromleitungen)ではなく、電力喪失の少ない高圧直流送電網(HGÜ、Höchstspannungs-Gleichstrom-Übertragungsleitungen)を使用するという。

ドイツ人は電柱や送電線を嫌い、景観を損なわないために、町中の送電網は全国どこでも全て地下に埋設されている。主に郊外や田畑、森の中を通る高圧送電網に対しても住民の態度は非常に批判的で、新設の送電網も埋設できないだろうかという話が、自然愛護者などから聞かれるほどだ。景観や人体への影響、自然保護などがとにかく大きな問題なのだ。そのため改訂されたエネルギー経済法では、送電網の新設に関し国民の参加を呼びかけることが義務となっており、この7月半ばまで、国民は提案や意見をドイツ連邦ネット・エージェンシー(Bundesnetzagentur)に伝えることが出来る。 また、環境に与える影響などもチェックされ、必要な変更や有意義な意見は最終計画で考慮される。

送電網開発計画案の提示に伴い、経済界や政治家からは送電網の新設計画を速やかに進めるようにとする声がある一方、ドイツ環境自然保護連盟(BUND、Bund für Umwelt und Naturschutz Deutschland)などは、当計画を厳しくチェックすることを勧めている。同連盟はまた、南ドイツにも多数の風力発電装置が設置されれば、新設の大部分は不要になるとも主張している。ドイツ全国再生可能エネルギー連盟(BEE、Bundesverband Erneuerbare Energie)によると、送電網の寿命は30年から40年と見られるので、それを考慮すると送電網新設・近代化のために再生可能エネルギーに掛かる負担は1kWh当たり0.5ユーロセント(約0.5円)程度になるという。

 

 

 

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