ドイツのテレビ番組「フクシマの嘘」など

永井 潤子 / 2012年3月11日

東日本大震災の1周年が近づくにつれ、ドイツのテレビはそれぞれ特集を組んで、震災1年後の日本の実情を伝えている。なかでも大きく取り上げられているのが福島第1原発の事故だが、これら原発関連番組では、日本の過酷な状況を伝えると同時に、当然のことながらドイツの脱原発の現情やヨーロッパの核エネルギー問題を考える番組が付け加えられている。例えば、ドイツとフランス両国が合同で運営する公共文化テレビ局アルテ(arte)は、3月6日(火)のゴールデンアワーから夜中までを「テーマの夕べ」として5つの番組を放映した。

1)「フクシマ、スーパーガウの背後に隠された真実」(55分)

2)「原子力をめぐる独仏の分裂」(55分)

3)「原発をめぐる独仏の専門家によるパネルディスカッション」(25分)

メルケル首相のもとで福島の事故後脱原発を決定したドイツと国境を接するフランスは、世界に名だたる原発大国で、電力の75%を原発に依存している。そのフランスでも原発に反対する人は増えてはいるものの、放射能の危険性に対する認識は一般に低い。フランスとの国境に近いトリーアに住み、フランスの原発反対デモに参加する若いドイツ人一家を通して、独仏の意識の差に焦点を当てる番組だった。

 4)「放射能の遺産」(50分)

ここでは放射性廃棄物を10万年にわたり貯蔵する最終貯蔵場所と方法を発見したというスェーデンとフィンランドの学者たちの主張が紹介された。それはフィンランドの広大な花崗岩地帯の地下に放射能廃棄物を貯蔵するという案で、スウェーデンやフィンランドの廃棄物だけではなく世界の廃棄物を貯蔵することも可能だと学者たちは説く。しかし、フィンランドの学者が「フィンランドの原子力をめぐる技術水準は非常に高い」と誇らしげに語るのを見て、私は既視感にとらわれた。福島第1原発の事故以前「日本の技術水準は高く、原子力発電所は安全だ」と誇らしげに言い続けてきたのは、日本の専門家といわれる人たちだった。フィンランドは森と湖の美しい自然で知られている。その美しい自然が放射能に汚染される可能性は本当にないのだろうかと疑問に思った。

5) 「南三陸、ある町の運命」(23時20分から0時30分までの55分)

大きな被害を受けた南三陸の漁師や船舶製造会社を経営する人など、数人の市民のその後の運命を追った、具体的で好感の持てる番組だった。

その翌日、3月7日(水)の夜、22時45分から30分間、ZDF(ドイツ第2テレビ)で放映された「フクシマの嘘」は、改めて日本人としてショックを受ける番組だった。これはZDFの東京特派員、ヨアヒム・ハーノー記者のリポートで、同記者はまず、福島原発から7kmの富岡町で80人の原子力技術者を抱える会社を経営し、長年福島第1原発の仕事にも関わってきた名嘉幸照(なか・ゆきてる)氏の案内で、立ち入り禁止地域にある同氏のオフィスと自宅を訪れる。一時帰宅を許された同氏の車に同乗したのだが、記者とカメラマンが白い防護服を着て頭にも白いキャップを被り、大きなマスクをしたのは、放射能の危険防止の他、外国人であることを隠すという目的もあった。ZDFのチームは、警戒厳重なチェックポイントを無事通過、無人地帯となった町の状況を見、名嘉氏から英語で説明を聞く。名嘉氏は長年福島原発の仕事に携わる間に技術の専門家として原発内の不具合を発見し、報告したが、そうした報告は顧みられることがなかったという。

名嘉氏の「日本の原子力村」についての説明の後、場面は東京での菅直人前首相とのインタビュー・シーンに変わる。前首相は、事故が起こった直後、メルトダウンが起こっているのかいないのか、東京電力からも原子力専門家からも正確な情報が全然あがって来ず、もっとも重要な情報を入手できなかったことについて淡々と話す。菅前首相は、その事故対策が「原子力村」を含む経済界、政界、マスメディアなど各方面から批判されて、のちに辞任に追い込まれた訳だが、前首相の驚くべき報告に、同記者からは「信じがたい」という言葉が漏れる。

その後、ハーノー記者はサンフランシスコに飛ぶ。福島第1原発の1号機はアメリカのジェネラル・エレクトリック社製だが、建設当時同原子炉の整備・管理部門の責任者だった日系アメリカ人、ケイ・スガオカ氏に当時の話を聞くためである。スガオカ氏も原子炉内の不具合や安全上の問題点を指摘したが、東京電力側の反応は「シャラップ!だまれ!」というものだったという。そればかりか事故の報告を改ざんした書類にサインすることを求められたという。職を失うことを恐れた氏は、その書類にサインし、10年間は沈黙を守った。しかし、同氏は退職した後、改めて危険を指摘する報告書を原子力の安全を管理する立場にある通産省に送った。何の変化もないので、調べてみると、通産省は、その報告をチェックする代わりに、それをそのまま東京電力に送ったことが分ったという。

「原子力村」の意向に反対する行動を取り続けたスガオカ氏は、長年孤立無援だったというが、のちに唯一同志といえる人にめぐりあった。元福島県知事の佐藤栄佐久氏である。佐藤元知事はいったんプルサーマルの受け入れを表明したが、東京電力によるトラブル隠しが発覚した後、地元には何の利益ももたらさないと受け入れを撤回、国の原子力政策を批判し続けた。そんななか、ある日突然、新聞に身に覚えのない土地不正取引の疑いを書き立てられ、実弟が逮捕された。その記事を書いた新聞記者はもともと原子力問題担当の記者だったという。その記事のせいで部下のなかに自殺を図る人も出て、佐藤知事は辞任に追い込まれた。その後本人も収賄の容疑で逮捕されたが、佐藤元知事は、ZDFとのインタビューで、「検察が作り上げたまったく根拠のない事件だ」と語っていた。

部下とともに福島第1原発の事故収束に目下全力を挙げる日々を送っている名嘉幸照氏は、事故現場で原子力技術者が高い放射能を浴びながら作業を続けると、いずれは専門知識を持つ健康で働ける技術者を探すのが難しくなるのではないかと憂慮している。現場の原子力専門家の言葉は特別の重みを持って響く。

最後は「今後また大きな地震があって、大量の使用済み燃料が貯蔵されている4号機がさらに崩壊するようなことがあれば、日本は大変なことになります」という名嘉氏の言葉や「今後4年以内に東京に大地震が訪れる可能性は75%あります」という地震学者の島村秀樹教授の予測で番組は終わった。僅か30分の番組だったが、福島原発の事故が起こるべくして起こった人災であることが実感された、心に重くのしかかる番組だった。

 

2 Responses to ドイツのテレビ番組「フクシマの嘘」など

  1. 島村 英紀 says:

    上記、私のコメントの訳が違っています。私は「4年で70%といった(東京大学地震研究所の研究者による)数値的な予想はあてにはならないが、一般的には東京が大地震に襲われる可能性はけっして低くはない」ということと、「原子力発電所の設計時に想定していた加速度をはるかに上回る加速度が、最近の地震では記録されている」ということを言ったはずです。

  2. じゅん says:

    島村様 ご指摘ありがとうございました。ZDF で放映された番組を再度確認の上、以下のように訂正いたします。
    最後のテーマは、大きな地震が近い将来起こる可能性があるかという点だった。「東京大学の研究者たちが4年で75%の確率で地震が起こるという研究を最近2月に発表した。このような地震で原発が壊れる可能性はあるのか」というナレーションの後、地震研究で有名な島村英紀教授の説明と東京電力や政府の関係者の反応が紹介された。島村教授は「地震で原発が壊れるのはかなり確実だ。最近の地震では、原子力発電所の設計時に想定していた加速度をはるかに上回る加速度が記録されている」と、データをあげて詳しく説明していた。
    僅か30分の番組だったが、福島原発の事故が起こるべくして起こった人災であることが実感され、将来のリスクについても考えさせられる、心に重くのしかかる番組だった。