「みどりの石炭」

やま / 2012年3月4日

市街地に山のように積もる生ゴミ。処分が大変な並木の落ち葉や藁。これらの廃棄物をシンプルな技術で炭に変え、「みどりの石炭」を生産する企業があります。昔、ドイツでは石炭は黒い金と呼ばれていましたが、落ち葉や藁が金に変わるとは正にグリム童話のような話です。

ご存知のように石油も石炭も元は植物です。この中には光合成を通して取り込んだ太陽エネルギーが蓄えられています。古代の植物が地中に埋もれ、密閉され、地熱や地圧を受けて変質したのが化石燃料です。

アントニエッティ博士をはじめ、ポツダムにあるマックス・プランク研究所のチームは自然界では何百万年もかかる炭化を数時間で済ましてしまう技術を開発しました。2006年に発表された当研究リポートの題名は「圧力釜で作る魔法の石炭」。水熱炭化(Hydrothermale Carbonisierung,略してHTC)と言われるこの技術は最近の革新技術ではなく、実は100年ほど前、ノーベル化学賞受賞者であるフリードリッヒ・ベルギウスがすでに研究を行っていました。アントニエッティ博士がHTCを再発見し、一般に普及したのはごく最近でした。

そして現在、HTCを工業化した企業の一つがサンコール工業(Suncoal Industries)です。経営者のフォン・プロエッツさんの説明によると原理は実に簡単です。
「圧力鍋で野菜スープを作ると想像してください。材料は都市廃棄物で、生ゴミであれば何でも結構。“スープのだし“に肉や骨が少々入ってもかまいません。ただ規模が違います。大型の装置になると50から60㎥になります。これを200度の温度で3時間ほど熱します。鍋の底に残るのは泥状の炭です。硬いジャガイモをゆでると柔らかくなり簡単につぶすことができるように、「バイオマスを煮て」この泥状の炭を圧縮し、さらに乾燥させます。これが商品名「サンコール」と名付けられたみどりの石炭です。通常4トンの都市廃棄物から砂や砂利などを取り除いた後、この方法で煮ると約1トンの炭化物が生産できます。しかし、煮る資源が100%バイオマスの場合、その割合は1対0.8、つまりこの4トンの生ごみから3.2トンの炭化物ができます。」同社のサイトの説明によると、1トンのバイオマスを煮る際、99kwhの投入エネルギー(ガスや電力)が必要で、これは生産された「みどりの石炭」の持つエネルギー量の約7パーセントに当るそうです。

生ごみには水分が多く含まれていて、発電の分野では変換効率が低く、さらに熱エネルギーが一部、水蒸気として逃げてしまいます。「“圧力釜でスープを作る“場合、ジメジメした、水分の多いゴミは大歓迎です。」と語るのは当会社の経営者であり、技師でもあるヴィットマンさんです。「みどりの石炭」の資源は、いずれにせよ処分しなければならないゴミです。食品加工から排出される残滓や、家庭ゴミを含む都市廃棄物です。わざわざエネルギー作物を栽培したり、森の中に落ちた、木の生長に大切な枯れ葉を集めたりする必要はありません。

色は茶色で、見た目もエネルギー効率も褐炭とは変わりません。「みどりの石炭」を燃やした場合、元はバイオマスですから、草木が生長した間に吸収した二酸化炭素量しか大気中に戻りません。発電所で生産された余剰な熱や電力はまだ簡単には保存できませんが、この「みどりの石炭」は貯蔵可能です。圧縮されているので場所も取らず、ねずみや害虫がたかる心配もありません。

「われわれの生産施設では6万トンの有機系廃棄物から約2万トンのサンコールが製造できます。年間6万トンというのは、トラック8台(普通1台につき6から10トン)が一日に運ぶ年間量に相当します。」

ドイツではこのような大量な廃棄物を処理している市町村は少ないそうです。したがって企業は世界市場へ目を向けています。マックス・プランク研究所の技術を初めて取り入れたグリーン・テクノロジー・グループであるG+R社は、海岸に流されてくる大量の漂着ごみの処理や、ブラジルの製糖業から出るバガスと呼ばれる絞りかすの利用などを計画しています。

将来、熱や電力を100パーセント再生可能エネルギーで供給するとなれば、せっかく作った炭を燃やし、二酸化炭素を再び大気へもどす必要性がなくなります。アントニエッティ博士のビジョンは、この人工炭化物を表土と混ぜることによって大気中の二酸化炭素総量を削減することです。同時にこの泥炭で効率よく農地の質を改良することができます。黒土が農業に適していると言われているのは、この炭素分が多く存在しているからです。中央ヨーロッパに住む人が各自約1.5㎥の炭素を表土に戻せば、彼らはカーボンニュートラルに暮らすことができるそうです。毎年ドイツだけで約5千万トンの農業廃棄物が排出されているそうです。この大量のゴミをそのまま畑にまくということは想像できませんが、このココアのような粉でしたらいくらでもまけそうですね。

写真はバウアー・コム(www.bauercom.eu)とG+R社が提供して下さいました。

2 Responses to 「みどりの石炭」

  1. みづき says:

    とても希望が感じられる技術ですね。

    日本ではずっと、「原発や火力など、大きな発電所を作って、それで一気に
    大都市や広い地域の電力をまかなう」という発想できていたように思います。
    それ以外の小さなエネルギー源は「そんなのじゃ、都市全域をまかなえる
    わけないし」とバカにされて、開発にもお金をかけてもらえないような。

    しかし、ドイツでは、こういう小規模&中規模なものがあちこちにあって、
    みんなそれを真剣に開発し、実際使って、生活に役立てている
    という例が多いですね。
    これは、日本のような災害の多い国でも、リスク分散という意味でも
    とても有効なんじゃないかなと思いました。

    日本人は、もっと自分のできる小さな取り組みから始めていく
    べきではないかな、と最近よく思います。

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