ドイツのあるデモ企画グループ

やま / 2012年1月1日

どこで処理するべきか、いまだに解決されていない放射性廃棄物。11月23日に、フランス・コタンタン半島にある工場で再処理された放射性廃棄物を載せた貨物列車が、発生地であるドイツに向かいました。それを座り込んで妨害しようと待ち受けていた市民数千人。この非暴力・不服従デモを企画をしたのは「エックス・タウゼントマール・クヴェアX-tausendmal quer)」というグループで、彼らのロゴは大きなクロスマーク。これは「おことわり」の意味ではなく、「いやだ」という強い反原発の意志を表明しています。

このクロスマークはアルファベットのエックスで、代数のエックスでもあります。ドイツ語では、例えば「数えられないほど多い、たくさん」という時にも使われます。無数の人々、何千人の人々が集まり、反対運動に参加してほしいというのが目的です。ドイツ語のquer は横に、横でという意味で、この「quer」と「考える者」を一緒にすると「信念の強い人」という意味にもなります。行動すれば必ず良い方向に変えることができると信じている、正にこのグループのメンバーのことです。

私がこのグループに注目したのは、今年3月26日の反原発デモに参加したときでした。デモに参加したベルリン市民たちが東北の津波被災者を思い黙祷をささげたあと、原発の安全性を疑う熱のこもった演説をしたのは、20代半ばの若い女性、ルイーゼ・N-Cで、彼女はこのグループのアクティビストの一人です。メルケル政権のエネルギー政策を転換させたといわれるこの反原発デモ、それに参加したのはドイツ全国で25万人、ベルリンだけでも12万人にも上りました。一週間足らずで、これだけの人数をまとめられたのは、プロフェッショナルな組織を持って、各地方で行動する若い世代のグループのネットワークが幾つかあったからです。

反対運動のアイデアはガンジーから

ドイツの長い原発反対運動の歴史から見ると(脱原発への歩み)「エックス・タウゼントマール・クヴェア」はまだ新しく、1996年に初めて放射性廃棄物容器(CASTOR、Cask for storge and transport of radioactive material、長さ約5~6メートル、幅約2.5メートル、重さ約110~125トン)がフランスからドイツ、ゴアレーベンへ輸送された時、現地で輸送阻止運動を企画した際にできました。この町に中間貯蔵施設が設置されたのは1977年、そして1986年に仮の最終処分場として岩塩ドームが試掘されました。この地域が選ばれたのは科学的根拠からではなく、旧東ドイツに近く、人口が少なく、抵抗も少ない町であったという、むしろ政治的背景からでした。13回にわたって、現在まで合計113個の放射性廃棄物容器が野外にある中間貯蔵施設に輸送されました。原子力発電所でエネルギーが生産されているかぎり増え続ける放射性廃棄物。これを何万年も、何億年もの間、環境や人類に害のないように貯蔵する容器、場所、方法はあるのでしょうか。このゴミは“収集してもらえるゴミ“ではなく、むしろ“危険で出してはいけないゴミ“です。「放射性廃棄物をできるだけ少なく、更に出さないようにするには、原発を今すぐにストップするべき」というのが彼らの要求です。
今まで専門家に委ねていたエネルギーや環境問題対策に疑問がある人、今までのように無自覚に黙認していきたくないと思う人は、このグループのサイトで「ブロカーデ・フィーベル」(座り込みデモ・初心者のための手引き)をダウンロードできます。
この手引きは非暴力主義者ガンジーの有名なことば1)ではじまり、個人の心の準備、デモ持参物、グループの結成の仕方など実用的で、しかもユニークなアドバイスがたくさん。草の根運動ですから、常にみんなが納得のいくような意見をまとめるのが重要です。そこでディスカッションのエチケットにも気を配るようにとすすめられています。座り込みデモの仕方、警察官に連行された場合どのように対処するかまで、イラストで丁寧に説明されています。
更に、警備に当たる警官隊と衝突した場合の行動規範や法的アドバイス、そして弁護士事務所の紹介まで、細かく記されています。
デモの前にポスター、旗、チラシ、Tシャツ用のロゴなどもあらじめダウンロードすることもできます。
デモ当日の1~2週間前には希望者のために各地でワークショップが催され、デモ体験者であるこのグループのアクティビストが来て、具体的な活動計画の説明があります。細かく計画され、準備されたデモこそ、成功につながると彼らは考えています。

その他このグループの非暴力妨害運動には、2007年の東北ドイツ・ハイリゲンダム・サミット反対運動、遺伝子組換作物反対、石炭火力発電所の新築反対、そして反核・平和運動などが挙げられます。インターネットの普及で、今では全国にまたがるネットワークとなり、一時的に、しかも即座にデモを企画できるグループのひとつとなりました。
クリックひとつで「イイネ!」と投票できる世の中ですが、座り込みで示す非暴力妨害運動こそ、本当の民主主義を創りだすひとつの良い方法で、「過去の例を見るとやりがいがある」と彼らは確信をもっています。

1)
はじめに彼等は無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろう。
そして我々は勝つのだ。
First they ignore you, then they ridicule you, then they fight you, and then you win.


 

 

Comments are closed.