ドイツ映画「第4の革命 – エネルギー・デモクラシー」の日本での上映

永井 潤子 / 2011年12月15日

日本から嬉しいニュースが届いた。私たちがこのサイト「みどりの1kWh」を立ち上げるきっかけとなったドイツのドキュメンタリー映画が、12月17日東京渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷で全国に先駆けて一般公開されることになったというニュースだ。私たちの仲間の一人はこのドキュメンタリー映画「第4の革命」(原題はDie 4. Revolution – Energy Autonomy 第4の革命、エネルギーの自立)の日本紹介を目指して努力したが、力及ばなかったという経緯があるため、私たちは日本公開が実現することを自分のことのように喜んだ。この映画について私たちはすでに1度紹介しているが、公開を前にもう1度詳しく紹介することにする。

カール・A・フェヒナー監督のこの映画(長さ83分)がドイツの映画館で一般公開されたのは、福島原発事故が起こる1年前の昨年3月だった。タイトルの「第4の革命」というのは、人類の歴史上初の農業革命(農耕の開始)、その後の産業革命、デジタル革命に継ぐ第4の革命としてのエネルギー転換、エネルギー供給システムの革命を意味している。この映画は長年環境問題や太陽エネルギーの普及に力を入れてきたドイツ社会民主党の政治家で、第2のノーベル賞といわれるライト・ライブリフッド賞(より良き社会の建設に貢献した人に与えられる賞)を受賞したヘルマン・シェーアの著書『エネルギーの自立、再生可能エネルギーに向けての新しい政治』を基につくられている。世界の10カ国で再生可能な自然エネルギーを利用して成果をあげている個人や企業を4年の歳月をかけて撮影、ヘルマン・シェーア自身が語り手として登場し、解説を加えている。なお、同氏はこの映画が公開された7カ月後の2010年10月、急死し、人々はヴィジョンにあふれた政治家の死を惜しんだ。

一般公開された当時、ドイツのマスメディアの多くが、この映画を「画期的なドキュメンタリー」として取り上げたが、そのなかにはアメリカのゴア元副大統領の映画「不都合な真実」をふまえて「喜ばしい真実」と評価したものもあった。ゴア元副大統領は地球温暖化という「不都合な真実」に警告を発し、その啓発活動が認められて2007年のノーベル平和賞を受賞、映画「不都合な真実」は長編ドキュメンタリー部門のアカデミー賞を獲得した。「第4の革命」の方は「原子力エネルギーから再生可能なエネルギーへの完全な転換が今でも可能であるという喜ばしい真実を、さまざまな具体例で明らかにした」と評価されたのだ。この映画は、この種のドキュメンタリー映画としてはめずらしく興行的にも大成功を収めた。また、この「第4の革命」は福島第一原発事故から2カ月後の今年5月初め、独仏共同出資の公共テレビ局、アルテ(Arte)で放映され、改めて大きな反響を呼んだ。福島での凄まじい原発事故にショックを受けていた時に、再生可能エネルギーがもたらす未来の可能性を示してくれたこの映画に、希望を見出した人も少なくなかったはずだ。テレビ放映を見た人は200万人にのぼるといわれ、ドイツの脱原発決定を後押ししたとも見られている。

すぐにはこの映画を見られない人のために、以下、少し詳しく内容を説明することにする。フィルムはまずシェーアが不夜城のように明るいロサンゼルスを訪れるところから始まる。現代社会がいかに貪欲にエネルギーを求めているかを示しながら、世界的な燃料不足問題はしかし、太陽光発電などによって解決の余地があると説く。同時に多くの国がいかに化石燃料の輸入に依存しているか、そして1人当たりの収入が、豊かな先進国のわずか2-8%しかない発展途上国も先進国と同じ価格で石油を輸入していると指摘し、第3世界の問題は再生可能な自立したエネルギーの供給なくしては解決できないと基本的な考えを明らかにする。シェーアは「ユーロソーラー」(EUROSOLAR 、再生可能エネルギー促進のため、シェーアの提唱により1988年に設立された公益団体、ヨーロッパの13カ国に支部がある)元会長であり、国際再生エネルギー機関(IRENA)の創設に加わり、世界未来委員会(WFC、World Future Council、 “ 国際政治のなかで未来の世代のグローバルな利益を守るための“ 委員会、本部はドイツのハンブルク)の委員でもあった。

シェーアと真っ向から対立する立場にあるのが、パリに本部を置く国際エネルギー機関(IEA)のトルコ人事務局長、ファティ・ビロールで、予測可能な期間内でのエネルギー転換は不可能だということを繰り返し強調する。2030年の世界では現在より45%以上多いエネルギー需要が生じ、そのうちの80%が、石油、ガス、石炭といった従来の燃料でまかなわれるというのが国際エネルギー機関の試算で、ファティ・ビロールはCO2を下げるために原子力の利用を各国政府に勧告している。「価格は手頃であり、必要なウランは世界中いたるところにある。フランスはエネルギーの80%を原子力から得ているが、核廃棄物は問題になったことがない」と主張する。これに対してシェーアは、従来の資源の枯渇問題や現在のエネルギーシステムによる健康被害、原子力発電所の事故やテロの危険性、放射性廃棄物の問題など核エネルギーの危険を指摘して反論する。解決策は各種の再生可能エネルギーを利用して地域ごとの分散的なエネルギーの自立を目指すことにあるというのがシェーアの考え方だ。

このように2つの対立する考えを示したあと、世界各地で再生可能なエネルギーの利用で成功している例や「電気飛行機」などエネルギー関連の新しい試み、CO2の削減に自然な方法で対処している例などを紹介して、映画はシェーアの説を裏付けていく。特に感動的なのは発展途上国での成功例だ。アフリカでは住民の60%が電気の恩恵に浴していないといわれるが、マリではデンマークで学んだ青年を中心とする仲間たちが村の分娩施設の屋根に太陽電池モジュールを設置し、初めて電気の照明をもたらした。これまでは夜間の出産には懐中電灯だけが頼りだった助産婦たちは大喜び。また、マリの村々では植物油ジャトロファの加工作業を中心にエネルギー自立の民主的な組織が構築されている。実を絞り、油を取り出す作業は3世代にわたる雇用を生み出し、400所帯に電力を供給しているという。バングラデシュでは、グラミン銀行の創設と女性支援活動でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスがエネルギー問題でも活躍している。グラミン銀行は1996年に再生可能エネルギーのための子会社を設立、バングラデシュの家々の屋根に毎月8000個の太陽電池モジュールを設置しているが、顧客と技術者はほとんど女性である。女性たちが技術を習得、機械を組み立て、修理ができるという。女性たちは自家発電の恩恵をこうむるほか、こうした技術で毎月100ドルの収入を得、都会へ働きに出る必要もなくなった。再生可能エネルギーによって誰もが経済的な成功にあずかれるようになった例である。

先進国では、デンマークの多様な供給源を利用した混合エネルギーで人口5万の島の需要が完全にまかなえている例を中心とする「ノルディック・フォルク・センター」の活動、ドイツでは親の反対を押し切って風力発電装置に投資した息子が、今では沢山のウインド・ファームを経営し、ライプチヒ郊外に発電能力4万キロワットの大規模太陽光発電所を所有して利潤を揚げている例など。太陽光発電がロサンゼルスのような巨大都市におけるエネルギー供給のかなりの部分をまかなうことができることを示しているのは、スペインの電力会社アンダソル社だという。アンダソル社では大規模太陽光発電で獲得された電力の一部が液体塩貯蔵によって夜間の需要のために貯蔵されている。ヘルマン・シェーアは上海大学での講演で、成長を続ける中国でも再生可能なエネルギーへの完全な転換は可能だと強調したが、中国の太陽光関連企業「サンテック・パワー」の中国人責任者が「太陽エネルギーによる電力価格が3-5年後には、従来の化石燃料や原発でつくられた電力価格より安くなることを確信している。中国でも2040年、あるいは2050年までに完全に再生可能エネルギーに切り替えること不可能ではない」と話していたのは驚きだった。

ドイツでは映画制作は、劇映画かドキュメンタリー映画かを問わず、映画振興財団や州政府などの公的助成金を受ける場合が多いが、フェヒナー監督はあえて個人や企業、非営利団体からの資金援助に頼るという方法を選んだ。その結果150を超える支援者・企業・団体から125万ユーロ(約1億3,250万円)の資金が集まった。これら支援者たちは映画完成後もパートナーとして各地で上映会を開くなど、さまざまな形での協力活動を続けている。スイスの支援団体はこの映画のDVDを3,500部購入、希望者に無料で配ったが、“必ず人から人へ渡して、まわし見すること”という条件が付けられた。代替エネルギーへの転換は、大規模な電力会社に依存するのではなく、それぞれの環境に合った地域ごとの自立的な電力供給によって可能になるため、こうした人と人の絆は、重要な役割を果たす。その意味で、日本語版のタイトルが「第4の革命、エネルギー・デモクラシー」となっていることに納得がいく。日本でもこのパートナーを通じての支援活動、草の根の自主上映の原則が貫かれる。「今から20-30年後にエネルギー生産の100%を風力、太陽光発電などの自然エネルギーでまかなうことは可能です。技術はすでに存在します。人々が決断し、声を上げれば、変化は起こるのです」フェヒナー監督はこう語っている。過酷な原発震災を経験した日本でこそ、多くの人がこの映画を見るよう願わずにはいられない。

 

3 Responses to ドイツ映画「第4の革命 – エネルギー・デモクラシー」の日本での上映

  1. 素晴らしい女性たちの編集力に脱帽します。 頑張ってください。 遠くメキシコから声援をお送りします。

  2. Naomi Mogi says:

    皆様のメッセージを拝見しながら、、返信もせずにおりました。この映画の上映は、私たちの代表の有田さんを中心に、本当が昨年2月に上映する予定が、なかなか進まず、今年2月になってしまいましたが、上映いたしました。もちろん、大好評でした!
    ぜひ見たいと思ってきました、という方や、お子さん連れの方も。また、いつもか通院している、歯科医が、地域での活動の一環として映画界も取り組んでいますので、この映画を初回しましたら、ぜひ前向きに考えていきたいと。さらに小規模ですが、川崎でも上映。昨日は、地元地域の別の仲間の団体に持ちかけたところです。
     6人の皆様のメッセージがいつも素晴らしく、考えさせられること、教えられることが大変多いので、カナダに住む娘にも時々紹介していますが、また、転送させていただきます。

  3. みづき says:

    昨日「Let’s Make Money」という映画を見たんですが、
    そこにも、ヘルマン・シェーア議員は出演していました。
    2008年の映画で、とても元気そうに見えたんですが、
    もう亡くなっているなんて残念です。

    「Let’s Make Money」は、グローバリゼーションによって
    先進国が発展途上国をいかに搾取しているかということを
    描いたドキュメンタリーで、これまた考えさせられる
    テーマでした。